地域とストーリーテリング

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書誌事項

タイトル別名
  • Region and Storytelling
  • MBAにおける地理的創造性教育の実践を通して
  • A Practice of Geographical Creative Education in MBA

抄録

1.はじめに<br><br>国をあげて地方創生の取組みが行われ,個性を活かした地域活性化を主体的に進める必要がある中で,依然として地域の効果的情報発信が課題とされている(田中,2016).一方,映画やアニメに描かれた地域への観光集客,いわゆるコンテンツツーリズム、ロケツーリズムが注目され(臺他,2015;安田2015;山村, 2013;Sims, 2009; Choi, 2017),地域のフィルムコミッションの活動は一定の成果をあげているが(虫明, 2017),プロジェクトの多くは東京で開発され地域側は受け身であり、東京で開発されるストーリーはロサンゼルスで開発されるハリウッド映画に描かれる日本に似て表面的である傾向があるため,地域がプロジェクト初期の開発段階から関与していくことで,より深いストーリーが構築でき、また地域の要素を効果的に発信できるのではないかと考えられる(原,2013).<br><br><br><br>2.先行研究と研究目的<br><br>個々の要素の因果関係のシンセシスにつながるため,戦略におけるストーリー性の重要性が組織論で指摘され(楠木,2010;デニング, 2012; ブラウン他, 2007)、また,人間の記憶はストーリーベースであることを基礎にブランドマーケティングにおいてもストーリーテリングを重視した研究が盛んに行われている(Woodside, 2010; Lee and Shin, 2015; Choi, 2017).地理学においても地域の様々な主体を動かす力やジオリテラシーとの関連でストーリーテリングが注目されつつある(Cameron, 2012; Kerski,2015) .原(2013)は,地誌的な視点をクリエイティブな活動に活かし,場所らしさを踏まえたクリエイティビティ、地理的な場所に関するセンシビリティを有したクリエイティビティ=ジオグラフィカル・クリエイティビティ(地理的創造性)の重要性を指摘した。本研究の目的は,地理的創造性の育成を目的としたMBA課程での教育実践について整理し,の成果と課題を検討することである.<br><br><br><br>3.ハリウッド映画脚本開発論と地域<br><br>1904年に始まったアメリカの商業映画づくりは観衆に理解できるストーリー映画をいかにつくるかという課題に取り組んで,試行錯誤の結果,1917年までにアメリカの映画作りの標準となるような一つのシステム「古典的ハリウッド映画」を確立したとされる(Bordwell et al.,1985) .<br><br>ハリウッドにおいてはシド・フィールドによる三幕構造やクリストファー・ボグラーによる英雄の旅など脚本開発の方法論が実践的に様々に検討されて来たが(フィールド,2009; フィールド,2012;ボグラー&マッケナ,2013;スナイダー, 2010; McKee, 1997; Alessandra, 2010; Trotter, 2010),ハリウッド映画の主流では様々な人々がリライトするため著者が特定しにくい等の理由から学術的には近年になるまで脚本に関して十分な検討がされて来なかったとされる(Maras, 2009).ボグラー&マッケナ(2013)が環境的事実を重要な要素として論じているものの,ハリウッド映画脚本開発論では伝統的に現地調査の比重が高くなく、地域の要素をクリエイティブなインプットとして脚本開発方法論の中でいかに組み込むことができるかは,学術的にも実践的にも残された重要な課題と言える.<br><br><br><br>4.MBAにおける地理的創造性教育の実践<br><br>香川大学大学院地域マネジメント研究科(香川大学ビジネススクール)は2004年に設立され,地域に焦点をあてたユニークな特徴を持つ経営系専門職大学院である.同研究科のMBA課程において,ハリウッドにおける映画脚本開発論と地域研究方法論を融合し,地域の要素を効果的に取り入れた映画の脚本の作成を主眼とした授業として,2014年から「クリエイティビティと地域活性化」を開講,2015年からは「実践型クリエイティブワーク演習」を開講している(表1)。本報告では,両授業の実践内容を整理し、達成事項と今後の課題を検討する.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564237994237312
  • NII論文ID
    130007412128
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000319
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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