国土地理院空中写真による亜高山帯林縞枯れのおよそ30年間の移動

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タイトル別名
  • The movement of <i>shimagare</i> phenomenon on subalpine-forest, Japan from aerial photographic interpretation about last thirty years

抄録

数年前から国土地理院によるWebページ,「地理院地図」ではオルソ化された写真画像(シームレス空中写真)が閲覧できるようになっている。山岳域についても簡易空中写真(2004年~)ならびに,国土画像情報(1974~1978年撮影)のカラー画像から,土地自然の変化をみることができる。これらを利用して,およそ30年を隔てた,北八ヶ岳を中心とした亜高山帯林に特徴的な縞枯れ現象(帯状に枯死木が移動する天然更新の形態)の動態を調べた。<br><br>発表者は,今から35年あまり前に学部の卒業研究で北八ヶ岳中山付近の縞枯れ現象を調査した経験がある(田中1981)。将来どのように変化するのか興味をもったが,動態を追跡するまでには至らなかった。当時の見解を検討しつつ,約30年間(1976年と2004年撮影の空中写真)を比較して若干の考察をおこなった。<br><br>対象としたのは,もっとも良く縞枯れが見られる北八ヶ岳を中心に,奥秩父連山,南アルプス,日光男体山,東吾妻山,八甲田大岳の(計20ケ所)で,それぞれの地域の山頂付近ごとに地理院地図のサイトから,地形図および,1976年と2004年頃の空中写真画像(ズーム17サイズ)をダウンロードし,アドビシステムのフォトショップでレイヤー化しそれぞれの縞枯れの位置を地形図上にトレースして移動および消長を明らかにした。<br><br>縞枯れ現象に関する報告は1970~80年代に多くなされたが,その特徴は太平洋側のシラビソオオシラビソの密生した亜高山帯林で,森林限界または山頂に近い高度の南向きの緩斜面にみられ,縞の方向から北から北東向きに移動しているものがほとんどであること。形成要因としては土壌の発達が未熟であることや台風などの南からの暴風が関与していることが指摘されてきたが,恒常的な駆因はいまだに解明されていない。<br><br>佐藤・岡(2009)が指摘しているように,北八ヶ岳では縞枯れ更新林分に付随して,一斉倒木型更新林分が存在し,そのふちが擬似的に縞枯れを呈しているものがある(田中1981)。’76年撮影の空中写真では,それらが顕著に見られるが,’04年では実生や稚樹が成長して,立ち枯れ帯が少なからずが消失している。さらに,紀伊半島の大峰山地では,縞枯れと認められていた林分が,広い立ち枯れ帯に変わっていたり,広葉樹などの侵入によって縞枯れではなくなっていることが判明した。また,小さなギャップであったものが,’04年には広い倒木帯(立ち枯れ帯)に変化している場合もあった。一方で,立ち枯れ帯から成木林,稚樹林へと連続的に変化し,なおかつ何本かの平行な縞の列を維持している縞枯れも確実に存在している。<br><br>調査した地域ごとに移動量を平均したところ,これらの攪乱傾向の大小との間には相関が見られた。持続的に更新が続いている縞枯れほど移動量は小さく,0.6m/年あまりであるのに対し,攪乱傾向が大きい場所では1.5m/年ほどである。このことと地形や高層気象観測による風との対応関係から,縞枯れの駆因となる風には台風などによる断続的な暴風に加えて,恒常的な卓越風をも想定せざるを得ない。より実証的にはフィールドでの年間を通じた,風などの環境計測が必要であろう。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564237995920384
  • NII論文ID
    130007411816
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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