マニラにおける19世紀後半の風向の日変化特性

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  • Diurnal cycle of wind direction at Manila for the late 19<sup>th</sup> century

抄録

1. はじめに<br><br> 東南アジアでは、気候変化の要因を検討するために必要な長期の気象観測データを充分に得ることが難しい場合が多い。そこで著者らはフィリピンを対象に、スペインのイエズス会士によって行われた19世紀後半の気象観測資料(紙資料)を収集し、電子化を進めてきた(赤坂,2014)。また収集したデータの品質チェックも兼ねて、19世紀後半以降のフィリピンにおける降水特性を明らかにすることを目的に研究を行っている(たとえば赤坂ほか2017)。これまでは降水量のみを対象に解析を行ってきたが、降水の変化要因を明らかにするためには、その他の気候要素に関する解析も行う必要がある。そこで本稿ではマニラを対象に、降水量の変化と関連が深い風向に着目し、19世紀後半の風向の日変化特性を調査した。<br><br><br>2. 使用データ及び解析方法<br> マニラは、フィリピンで最初に観測が開始された地点であるため、長期にデータを得ることができ、また他の地点よりも観測要素が多く、要素によっては時間単位のデータを得ることができる。本研究では、日本の気象庁図書室やイギリス気象局等で収集したマニラの気象観測資料のうち、1868年1月~1883年6月における風向・風力の3時間ごとのデータを使用した(ただし24時、3時の観測値は収録されていなかったため欠損)。観測時刻は現地時刻である。1890年代の資料も収集したが、1884年に観測場所の移転があったため(Udias, 2003)、まずは1883年までを対象とした。データ欠損期間は1869年6月、1870年10-12月、1875年、1877年である。1881-1882年の雲量の3時間ごとデータ(夜間はデータなし)も使用した。<br> まず風向の季節変化特性を把握するために、風向の日変化ダイアグラムを作成した。その結果、5-10月、11-1月、2-4月で異なる日変化特性がみられたため、これらの期間ごとに時刻別の風向頻度割合を算出し、季節別の風向の日変化特性を考察した。<br><br>3. 結果と考察<br> 季節ごとの時刻別風向頻度割合を図1に示す。どの季節も6時に静穏の割合が高く、30%近くを占めている。次いで9時、18時、21時に静穏の割合が高いことから、1年を通して夜間から早朝にかけて風は弱い傾向にある。また12時に西風の頻度が最も高くなる点も共通している。<br><br> 季節ごとにみると、5-10月は12時に西よりの風、15時には西から南西よりの風、18時には南西の風が約20%を占めており、夕刻に向かうにつれて南西よりの風へと変化している(図1a)。マニラでは雲量は12~15時に多くなる傾向にあるが、5-10月には18時に最も多くなる(図略)。そのため、12時の西よりの風は海風、18時の南西の風は夏季モンスーンの影響によるものと考えられる。一方、6時には静穏と北東風の頻度が高く、それ以外の風は10%に満たない。南西モンスーン期であっても朝方には凪もしくは陸風の影響が表われていると考えられる。11-1月には、夜間(18時と21時)に東~南東の風の頻度が5-10月と比較して5~10%高くなり、2-4月にはこの傾向がより顕著になる(図1b-c)。2-4月の15~21時にみられる東よりの風は貿易風と陸風によるものと考えられる。また明瞭な乾季である2-4月には西南西~南の風は観測されていない。<br> 本稿では19世紀後半の風向の解析結果のみを示したが、今後は20世紀後半の風向の日変化特性も併せて解析し、19世紀後半の風向データの特性について議論したい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564237995935360
  • NII論文ID
    130007412055
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000227
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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