山村におけるボランティア有償運送の継続と地域志向型ライフスタイル

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書誌事項

タイトル別名
  • Continuing Non-Profit Special Transport Services by Local Lifestyle in Mountainous Areas.
  • 徳島県上勝町の事例
  • A Case Study on Kamikatsu-Town, Tokushima-Pref.

抄録

1.はじめに 本報告では,地域共生社会への関心のもと,山村のボランティア有償運送(ST)の運営のあり方を検討する。その際には,地域社会との接点が多い生活様式や就労形態を「地域志向型ライフスタイル」と定義し,そこに焦点を当てた。研究対象地域にはSTの盛んな徳島県上勝町(面積206.8㎢・2015年国調人口1,545人)を選定し,現地調査を2011年3月より2017年9月にかけて断続的に進めた。STの事務局は,上勝町内の廃棄物回収やシルバー人材事業等の町委託事業を受け持つNPOゼロ・ウェイストアカデミー(ZWA)である。STは利用者登録制であり,高齢者の通院や買物,町内の視察,夜間(飲み会)の帰宅等によって,2016年度の年間利用件数は1,437人(712件)であった。<br><br>2.運転ボランティアの登録と地域志向型ライフスタイル 上勝町では20代から70代の24名が,シルバー人材として74歳定年制の運転ボランティア(VD)に登録している(2017年9月時点)。24名は町内勤務者か定年者であり,登録3年未満のVDは 13 人にのぼる。VDは主にST事務局関係者の声がけによって確保されており,空き時間を有効活用したい商店主や農家(定年者),VDの必要性を現場で実感してきたZWA関係者,利用者の交通確保を必要とする町内の飲食店や商店の経営者,視察対応の担当者も含まれている。彼らは仕事の内容が地域と密接した地域志向型ライフスタイルにある者といえる。また,地縁や職縁,地域社会に対する“貸し借り”の一つとして登録した者もいた。そこからは,住民生活を取り巻く村落社会的な互酬性も登録者の確保に寄与してきたことがうかがえる。日常生活とVD登録との関係性は様々であるものの,VDは,援助や協力をしたい気持ちからSTが住民生活に役立つことに共感し,住民との交流増加や収入の確保等に充実感を得ており,今後も登録を継続したいと考えている。ここにSTは,地域に生活する様々な立場の住民の社会参加の手段として機能しているものと理解される。<br><br>3.運営体制の継続と地域志向型ライフスタイル ST事務局の運営は,ZWAの他業務の合間を縫って行われている。利用者や運転手からの登録料収入は配車等の電話代や講習会費に充てられている。この下で,Iターン者とも関係を持つ20代から50代のST事務局のメンバーは,VDとして信頼できる様々な住民に登録を呼びかけてきた。STの継続には,これら費用の最小化や地域社会内のネットワークや先述の互酬性に加え,事務局による運営の工夫も大きく寄与している。事務局と運転手は,STはあくまでボランティア活動であると認識している。このためST事務局はVDに過度な負担をかけないよう,VDの就業形態やVDと利用者居住地域との近接性,利用者ニーズに配慮し配車を行っている。自営業者など地域志向型ライフスタイルを持ち,時間的融通性や運転意欲を持つ6名が主に運転を担っている。彼らの都合がつかない場合は,残るVDに配車を依頼したり,VDでもある事務局員が対応したりする。VD層の厚さとVDへの配慮は,VD不在や利用者とのトラブルを極力回避し,住民の移動ニーズを充足させている。この工夫された運営は,ST事務局関係者や彼らを取り巻く住民による地域情報や関係性の蓄積によって可能となっている。その基礎は,名(みょう。小字)や各種地域団体における共同作業や住民間の日常会話といった,上勝町に残されている村落社会的な連帯の中にある。加えてZWAの地域志向型業務や住民の上勝町内での職務経験もまた情報や関係性の獲得の場として機能している。<br><br>4.おわりに このように上勝町において,住民の地域志向型ライフスタイルおよび地域の村落社会的特質によって供給される人材や情報は,STの運営資源として機能してきた。この下でST事務局は,運転協力のできるVDや利用者に配慮した登録依頼や配車に心がけ,運営安定化に努めてきた。その結果,様々な立場の住民の地域生活を充足させる社会参加が共時的に達成され,STの運営は継続してきたのであった。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564237995939456
  • NII論文ID
    130007412002
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000302
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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