消費者市民社会の実現をめざす高等学校のカリキュラム開発

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タイトル別名
  • The development of High school curricula to nurture consumer citizenship

抄録

【問題の所在と目的】<br> 2012年に施行された「消費者教育の推進に関する法律」において、持続可能な社会の発展に積極的に関与できる構成員を育成すること、つまり健全な消費者市民社会の構成員としての自覚や能力の育成を意識した消費者教育を学校、家庭、地域社会、職域など様々な場面で推進することが明記された。<br> さらに2015年9月の国連総会で持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、すべての人が豊かで充実した生活が送れるよう、人的環境も含めた持続可能な社会の形成に向けて、「持続可能な生産消費形態を確保する」「各国内及び各国間の不平等を是正する」など17の目標が設定された。次の世代に安心して渡せる「経済」「環境」「社会」に変える取り組みがこの SDGsに盛り込まれている。「安さ」「早さ」等の個人の利益ではなく、人間が豊かに生活できることや資源を大切にすることを優先させ、自然と調和する経済、社会、技術の進展を確保するために世界中が努力することをこの国連総会で合意した。<br> 一方、学習指導要領の総則にも、次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を教科横断的な視点で育成していくことが示されている。改訂学習指導要領では、「何ができるようになったか」への改革が求められ、持続可能な消費者市民社会の実現を目指す教育は、特定の教科だけではなく、学校教育全体で取り組むことが必要である。高校生が解決すべき問題を自分の生活に引き寄せ、生涯にわたって探究を深める未来の創り手としての資質・能力を育むためのカリキュラム開発は喫緊の課題である。<br> そこで本報告では、未来社会の創り手として必要な資質・能力を育み、消費者市民社会の実現を目指す高等学校のカリキュラムをどのように開発できるのか、学習指導要領の記述を中心に検討したい。<br>【方法】<br> 2018年3月に告示された高等学校の学習指導要領と国連SDGs等を資料とし、消費者教育に関連する記述、学習内容を整理した。それらを基に各教科で実践できる消費者教育の授業を考案し、さらに家庭科とどのように連携できるか、教科横断的に取り組めるカリキュラムを提案し、育成したい資質能力を提示する。<br>【結果と今後の課題】<br>1)教育基本法第2条の教育目標に「正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う」ことが明記されている。このことを広く学校教育現場で共有しながら消費者市民社会の構成員としての自覚や能力を育成する消費者教育の推進を図ることが重要であることを見出した。<br>2)新学習指導要領において「持続可能な社会」、「消費者の責任」という記述が学習項目に見られたのは、公共と家庭のみであった。消費者市民社会の構成員としての自覚や能力を育成するためにはこれらの内容に関連した学習内容を他の教科でどのように取り上げることができるのか提案する必要がある。<br>3)国連SDGsの17の目標のうち、「12 つくる責任 つかう責任」で消費者の責任について触れている。消費者が商品やサービスの購入、使用、廃棄等を通じて、人や社会、環境に影響を与えていることを自覚させ、自らの消費のあり方を変えることで「4 質の高い教育」「5ジェンダー平等」「13 気候変動」「17 パートナーシップ」等の目標達成にも近づくことをあらゆる教科の学習を通して気づかせることが重要である。<br>4)環境教育や国際理解教育、情報教育、食育、金融教育、人権教育など既に教育現場で取り組んでいる学習とどのように連携させるかを提案する必要がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238020247808
  • NII論文ID
    130007474556
  • DOI
    10.11549/jhee.61.0_59
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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