スタートアップ都市・ベルリンのジェントリフィケーションと創造性

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  • Gentrification and Creativity in Startup city Berin

抄録

地理学内外において議論を巻き起こしたフロリダ, R.の”The Rise of Creative Class (2002)” が発表されて以来,創造性Creativityや創造都市Creative City,創造産業Creative Industryは鍵概念となり,多くの関連論文が執筆された.この「創造都市の時代」は,金融経済に牽引される「グローバル都市の時代」に代わるものとして,また,多様性や社会的包摂性において,その役割が大いに期待された(佐々木 2017).とりわけ,基幹産業の衰退に直面していたEU域内では,創造産業は代替産業として期待され,創造性は2000年代に都市政策や再開発の概念として積極的に取り込まれていった(池田 2016).他方で近年,新しい潮流がグローバル都市において生じつつある.それが,”Rise of the Startup City”である(Florida and Mellander 2016).同論文によると,スタートアップ企業は都市への立地を指向するが,それらは主にシリコンヴァレーやボストンのRoute128沿い,シアトル,オースティン等の”nerdistan”と称される郊外,あるいはエッジシティであるとされてきた.しかし近年,こうしたハイテク産業の一部は,サンフランシスコ・ベイエリアやボストン,ニューヨークの都心部「都心回帰(back to the city movement)」の傾向にあるという.この都心回帰の要因として,同論文は,都市中心部に①才能(才能のある人材の都市中心部の居住と②アフォーダブルかつフレキシブルな空間(古い建造物等)があることを挙げる(Florida and Mellander 2016).同論文は,中心と郊外の二項対立が顕著であるアメリカの都市構造を前提とした研究であるが,欧州やアジアの諸都市ではどうであろうか.また,企業・人材移動を含むスタートアップ都市間の関係性はいかなるものであろうか.そもそも,IT産業がネット環境を前提とするにも関わらず,都市を指向する理由は何であろうか.ベルリンは,グローバルスタートアップエコシステムの上位9位にランクインする程,スタートアップブームの中にある(HUFFPOST,2015年7月30日).その萌芽期を形成したSoundCloudやRocket Internetは2007年に設立され,以降スタートアップ企業が設立され,その数はドイツで最多である.これらの企業は,ベルリンにおいても都市中枢のインナーシティに位置し,雇用・労働形態においてフレキシブルな労働力を多数擁する.前掲の論文にならい,スタートアップ企業の集積要因を考えた場合,安い物価・居住費に起因する人材(アーティストや高学歴の若者)の豊富さ,英語への適応力の高さ,ナイトライフの充実,自然の豊富さ,街としての自由度等がある(聞取り調査に基づく).それらの一部は,ベルリンの分断の歴史に端緒をなす.多くの人間が都市中心部の居住(生活)を嗜好する以上,ジェントリフィケーションは不可避であると思われるが,ベルリンの住宅市場の特異性を考えると,街区レベルでいかにジェントリフィケーションが喫緊の課題となってきたかが理解できる.他方で,ジェントリフィケーションは過程であることに最大の意味があり,そこに地理学的視点の強みや独自性がある(池田 2018).ジェントリフィケーションは,「居住の問題」を超えて,街区や地区全体,あるいは都市全体の特徴や課題を浮き彫りにする.世界やEUにおけるベルリンの立ち位置の変化に注意を払いつつも,街区レベルでの些細な変化を見落とさず,定点的観測を継続し,今後の変化を見据えることが重要である.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238048952448
  • NII論文ID
    130007539910
  • DOI
    10.14866/ajg.2018a.0_93
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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