モンゴルの牧民の馬乳酒製造法II

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タイトル別名
  • Mongolian herders’ <i>airag</i> (fermented mare’s milk) production II
  • 名産地モゴド郡におけるウマの飼養法のGPSによる調査
  • How horses for <i>airag</i> production are raised in Mogod county

抄録

はじめに ウマの生乳を発酵させた低アルコール飲料であり、今も遊牧が基幹産業であるモンゴル民族の伝統的な夏の健康食である馬乳酒の、昔ながらの製造法の記録・検証・普及のために、馬乳酒名産地での製造法と環境条件、ウマの行動の関係の解明を進めている。草原で粗放的に放牧される馬乳酒製造用の家畜ウマの群れの動きには、遊牧民の管理手法や環境条件、隣家の家畜との関係などが影響すると考えられる。そこでの隣接する遊牧民が所有する家畜ウマに位置追跡用の全球測位システム(GPS) ロガーを装着し、ウマの行動と環境条件の関係やその季節変化、隣家間のウマの空間利用の実態を明らかにすることを目的とした。<br><br>調査の概要 馬乳酒の全国的名産地の一つである、モンゴル国北部のボルガン県モゴド郡で、馬乳酒生産用のウマのGPS追跡を実施した。馬乳酒製造期間中のウマの環境利用については、3組の母子ウマの位置を2013年6月25日~9月21日に1分間隔で記録した。ウマの利用場所の季節変化と隣家間関係については、隣接する2軒の遊牧民の雌ウマ各1頭の位置を2016年3月9日~2017年9月4日に1時間間隔で記録した。毎正時の自動気象観測と、周辺の植生調査を2013年の6~ 9月に毎月1回実施し、追跡ウマ所有家庭を対象に馬乳酒製法についてのヒアリングも行った。<br><br>結果 馬乳酒用の搾乳は夏(6~9月)のみに行われ、それ以外の季節にウマの群れに人が関与することは殆どなかった。搾乳期間である夏には、日中に仔ウマたちをゲルの前に繋ぎ、傍に寄り添う母ウマから日に数回搾乳し、夕方から朝までは母子を草原に放すという日帰り放牧が実施された。2013年夏1日の行動圏半径は平均3.2 kmで、6月末から8月中旬頃までは川沿い、それ以降の9月中旬までは丘の上が中心だった。放牧中の母子間の距離は子ウマの成長とともに大きくなり、6月末は100 m以内だったが8月末には1000 mを超えることもあった。隣接した遊牧民が所有するウマの行動圏は隣接したが、どの季節も行動圏の重複率は小さかった(図1)。<br><br>考察 搾乳は仔ウマのための乳を人間が横取りする行為だが、馬乳酒製造用のウマの群れは、きわめて自由度の高い方法で飼養されていた。良質の植生環境の効率的な利用の観点だけでなく、母子間の関係も良好に保たれているようであり、家畜福祉の観点 からも興味深い。隣接遊牧民が所有するウマの草原の使い分けは、良質な馬乳酒生産や草原管理上、重要な伝統的知識が存在する可能性を示唆する。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238049324672
  • NII論文ID
    130007539860
  • DOI
    10.14866/ajg.2018a.0_132
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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