公営住宅立地に着目した東京都区部における母子世帯居住特性の探索的空間データ分析

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  • An Explanatory Spatial Data Analysis of Residential Characteristics of Single-mother Households in the Tokyo Ward Area Focusing on Public Housing Location

抄録

1.はじめに<br><br> 本研究では、東京都区部における母子世帯の居住特性を探索的空間データ解析の手法を用いて解明することを目的とする。東京都におけるひとり親世帯の支援は市区町村単位が主体となっており、地域で支援施策が異なる。しかし、日本全体における母子世帯の状況は厚生労働省の調査などでまとめられている一方、自治体や地域レベルの調査・研究は十分とはいえない。<br> その中で由井・矢野(2000)や久保ほか(2011)は東京都区部・沖縄県の状況を基に論じており、母子世帯の多くが民間賃貸や公営住宅に居住していることを指摘している。一方、葛西(2014)は公営住宅への入居には一定のハードルがあり、必ずしも助けになるとは限らないと指摘している。母子世帯により離婚・死別時の状況・経済状況・子どもの要望などの要因が異なるため、公営住宅の利用可否含む、居住環境にはいくつかのパターンがあると考えられる。本研究では、特に公営住宅の立地・戸数との関連に焦点を当て、母子世帯の居住特性を分析する。<br><br><br>2.分析手法<br><br>地理情報システム(GIS)を用いて母子世帯の居住分布と公営住宅の立地を合わせて分析を行う。分析では、母子世帯居住の空間的なパターンを計測するため、空間的自己相関指標を用いて集積の有無を検証する。集積発生の検証の次に、集積地区の特定を実施する。特定には二種類の指標:Local Moran's IとGetis-Ord Gi*統計量を用いる。前者はホットス/コールドスポットだけでなく、外れ値の検出ができる。データは東京都が公開している平成27年国勢調査小地域統計を用いる。町丁目ごとの母子世帯率を算出して集積の検証を行い、都営住宅立地との関連性を検討する。<br><br><br>3.分析結果と考察<br><br> 空間的自己相関を検証した結果、町丁単位の母子世帯率には正の空間的自己相関が発生していることがわかった。このことから、母子世帯率が高い地域は互いに近くにあると考えることができる。集積地区の特定では、二つの指標で類似の結果を得られたため、空間的外れ値を示せるLocal Moran’s I統計量を用いる。その結果、都営住宅の立地と母子世帯率のホットスポットは必ずしも対応しないことがわかる。例えば新宿区戸山周辺は都営住宅が多い地域でホットスポットになっているが、江戸川区のホットスポット周辺には都営住宅が少ない。また、大規模な都営住宅のある練馬区光が丘はホットスポットと判定されなかった。母子世帯率と町丁目ごとの世帯に占める都営住宅戸数割合の相関係数は約0.4であったため、全体として両者には中程度の相関がある。高倍率かつ居住までに一定の手続きを踏む必要のある都営住宅は、母子世帯が希望しても入ることができない場合があることが考えられる。<br> 今回の分析から、公営住宅の中でも母子世帯の集中割合が比較的低いと考えられる場所や、公営住宅以外の集積を特定した。現在の制度では、母子世帯は都営住宅への優先入所権を持つが、その権利を行使できるのは年に2回だけであるため、そこに漏れた母子世帯は別の居住地を探す必要がある。今後はこの点を踏まえ、母子世帯の居住地決定に重要な他の要素を検討することが課題である。<br><br><br>参考文献<br><br>葛西リサ 2014.母子家庭にみる住まいの貧困 住宅会議 91: 22-25<br><br>久保倫子・由井義通・久木元美琴・若林芳樹 2011. 沖縄県<br><br>におけるひとり親世帯の就業・保育・住宅問題 地理空間<br><br>4(2): 81-95<br><br>由井義通・矢野桂司 2000.東京都におけるひとり親世帯の<br><br>住宅問題 地理科学 55(2): 77-98

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238049697280
  • NII論文ID
    130007539816
  • DOI
    10.14866/ajg.2018a.0_112
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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