I-Love-Q:中性子星における普遍的関係性と基礎物理学検証への応用

書誌事項

タイトル別名
  • I-Love-Q: Universal Relations for Neutron Stars and Their Applications to Fundamental Physics
  • I-Love-Q : チュウセイシセイ ニ オケル フヘンテキ カンケイセイ ト キソ ブツリガク ケンショウ エ ノ オウヨウ

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抄録

<p>核物理学における重要な未解決問題の一つに,核密度を超えた物質の状態方程式(圧力と密度の関係)の決定が挙げられる.様々な状態方程式が提唱されてはいるが,どれが正しいかはわかっていない.地上実験で決定しようにも,実現できる密度には限界がある.そのような状態方程式を探るうえで,宇宙に存在する中性子星はまさにうってつけの「実験場」となる.</p><p>中性子星とは,太陽のおよそ8倍を超える質量をもつ恒星が,その進化の最後に重力崩壊を起こした際に残る,コンパクト天体の一種である.質量は太陽と同程度であるが,半径は10 km程度しかなく,中心領域では核密度をはるかに超える超高密度が実現していると考えられている.ここで重要なのは,中性子星を観測することで内部構造の情報が引き出せれば,状態方程式の情報に焼き直すことが可能である点である.実際,最近観測された中性子星連星合体起源と考えられる重力波観測により,状態方程式に対して新たな制限が設けられた.</p><p>さて,中性子星が適しているのは,核物理学の検証のみではない.その表面での重力は太陽のおよそ10万倍にも達するため,中性子星観測は強重力場における重力理論の検証にも大いに有用である.ここで問題となるのが,核物理学と重力物理学の不定性の縮退である.つまり,あらかじめ正しい状態方程式がわかっていないと,多くの場合,精度よく重力理論の検証を行うことが難しいということである.そこで有用となるのが,中性子星の観測量間に存在する,状態方程式には強く依存しないような普遍的な関係性である.このような関係性を用いれば,正しい状態方程式をあらかじめ知らずとも,重力理論の検証が可能となる.</p><p>最近,我々は,そのような普遍的関係性を発見することに成功した.それは,中性子星の慣性モーメント(I),潮汐ラブ数(Love),四重極モーメント(Q)の間に存在する普遍的関係性で,I-Love-Q関係性と呼ばれている.潮汐ラブ数は,連星中の伴星等により生成された潮汐場に対する,物体の変形のしやすさを表す物理量であり,重力波イベントはこの量に上限を与えた.</p><p>I-Love-Q関係性の状態方程式依存性は1%程度であり,高い普遍性が実現されている.一方,この関係性は重力理論には強く依存するため,中性子星のこれらの観測量を精度よく測定することで,強重力場における重力理論の検証が可能となる.例えば,将来の連星パルサーの観測から中性子星の慣性モーメントが測定され,重力波観測から潮汐ラブ数が測定されると,ある種の修正重力理論に対して,現在得られているものよりも6桁程度強い制限を与えられる.これは,中性子星の普遍的関係性が,重力理論の検証においていかに重要な役割を担うかを表している.また,このような普遍的関係性は,核物理学の検証や重力波天文学においても有用である.</p><p>なぜこのような普遍的関係性が成り立つかはっきりしたことはわかっていないが,星内部に存在するある種の「対称性」が要因である可能性がある.さらには,物性物理学における二次相転移に現れる普遍性との関連も興味深い.普遍性の起源をより深く追求することで,中性子星物理の理解がさらに深まるであろう.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 73 (6), 370-375, 2018-06-05

    一般社団法人 日本物理学会

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