4<i>f</i> 電子系物質における高圧力を用いた新奇な量子相転移の開拓

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タイトル別名
  • Pressure-Induced Novel Quantum Phase Transition in 4<i>f</i>-Electron Systems
  • 最近の研究から 4f電子系物質における高圧力を用いた新奇な量子相転移の開拓
  • サイキン ノ ケンキュウ カラ 4f デンシケイ ブッシツ ニ オケル コウアツリョク オ モチイタ シンキ ナ リョウシソウ テンイ ノ カイタク

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抄録

<p>凝縮系物理学における主要な研究テーマの一つは電子系が有するスピン,電荷,軌道自由度に起因する多彩な相転移現象を理解することである.その研究の蓄積によって培われた概念や手法は宇宙および素粒子物理学にも通底することが知られており,物理学における分野の枠を超えた興味深い研究課題である.相転移現象を含む物質の諸物性は温度や圧力,磁場などにより制御することが可能であるが,なかでも高圧力は物質合成と同じく新規物性・機能を開拓するための有力な手段である.古くは圧力印加により絶縁体–金属転移を起こすことができることが知られているが,最近では,150万気圧の超高圧力印加により硫化水素において転移温度が200 Kにも及ぶこれまでの常識では考えられないような超伝導が見出されたことは記憶に新しい.また,本稿で主題とする強相関電子系物質では,量子臨界点と呼ばれる絶対零度における秩序–無秩序転移の近傍において非従来型超伝導や異常な金属状態が観測されるが,高圧力はその起源解明の有力な鍵となる電子相図を得るためのパラメータとして大変有用である.従来の量子相転移の研究は磁気的な量子臨界点近傍におけるスピン揺らぎに関するものであったが,電子系が有する電荷(価数)や軌道自由度の秩序状態における量子相転移やその揺らぎによる新奇な量子凝縮相の発現は可能だろうか.近年,スピン揺らぎの枠組みから逸脱した量子臨界現象や超伝導発現機構に由来する現象が高温超伝導体や重い電子系物質などにおいて相次いで報告されており,スピン自由度に加えて電荷や軌道自由度が果たす役割の重要性,さらにはそれらの競合および協奏の可能性が議論されている.その一方で,特異点である量子臨界点周りにおける電子状態の特徴が圧力の不均一性によってぼやけてしまうことや,高圧・極低温という複合極限環境下での物性測定の困難さも相俟って,その本質は未解明である.</p><p>筆者らは最近,質の良い(圧力の不均一性が小さい)10万気圧級の高圧力を精密に制御することによって,4f 電子を含む重い電子系物質において価数や軌道自由度の不安定性が関与した量子相転移や圧力誘起超伝導を発見することに成功した.常圧で非磁性基底状態をとるYb化合物YbNi3Ga9においては,高圧下においてYbイオンの価数が磁気的な3価状態へとクロスオーバーを起こし,圧力誘起磁気秩序が出現することを見出した.さらに圧力誘起磁気秩序が出現する圧力よりもわずかに低圧側の非磁性相では価数変化を示唆する磁場誘起相転移が観測され,磁気転移点近傍に潜む価数の不安定性の重要性が明らかとなった.また,4f 電子の基底状態として磁気双極子の自由度を持たないPrTi2Al20においては,軌道秩序が圧力によって抑制される近傍において超伝導転移温度が急激な増大を示すことを見出した.また,同じ圧力領域では電子の有効質量も大きく増大しており,軌道秩序の抑制に伴う軌道揺らぎを媒介とした重い電子超伝導の発現を示唆している.</p><p>10万気圧級の高圧下におけるこれらの研究結果は非従来型の量子臨界現象や超伝導発現機構において,スピン自由度のみならず価数や軌道自由度が関与している可能性を示唆している.そして,こうして明らかとなった新奇な量子相転移に関する知見は,電子系が有する多自由度性に着目した今後の新物質開発の指針になると期待される.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 73 (5), 292-296, 2018-05-05

    一般社団法人 日本物理学会

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