半導体の電気伝導におけるZitterbewegung(ジグザグ運動)

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タイトル別名
  • Zitterbewegung of Electron Motion in Semiconductors
  • 最近の研究から 半導体の電気伝導におけるZitterbewegung(ジグザグ運動)
  • サイキン ノ ケンキュウ カラ ハンドウタイ ノ デンキ デンドウ ニ オケル Zitterbewegung(ジグザグ ウンドウ)

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抄録

<p>Zitterbewegung(ZB)はSchrödingerがDirac方程式の研究で見出したもので,一般には粒子が何らかの相互作用により2つの速度状態の間を遷移することに伴う振動現象である.その振動数は相互作用による準位間反発のエネルギーギャップに相当し,Schrödingerのオリジナルである真空中の電子に伴うZBは,それが実際に起こるものであったとしても,実験的観測は振動数の高さや微小な振幅から事実上不可能である.固体中の電子では,格子ポテンシャルや多体効果,更には人工構造などに由来する様々な準位間反発ギャップが存在する.これらの準位の指数となる自由度が,電子の運動自由度自身であったり,運動自由度と何らかの形で結合していればZB,すなわち異なる速度状態間のコヒーレント振動を生じる可能性がある.</p><p>このような固体中の電子のZBで,実験的な観測可能性が議論されてきたのが,半導体中のRashba型スピン軌道相互作用を起源とするものである.スピン軌道相互作用は,運動量に応じてスピンに対する有効磁場を生じZeeman効果と類似のギャップを与えるが,この時スピン自由度は軌道自由度と結合しているので,何らかの方法でコヒーレンス振動(スピン空間で見ればスピン歳差運動)を起こせば,速度空間でも振動,すなわちZBが生じる.実空間内ではこれは電子の蛇行運動となる.理論的な検討では,パラメーターの調整や,超微細でクリーンな構造,初期状態の準備など,難しい条件をクリアすれば,実験でもぎりぎり観測可能という厳しい結果を報告しているものが多く,実際明瞭な実験結果はほとんど報告されていなかった.</p><p>筆者らはこれまでの実験の提案とは異なる方法で,Rashba型スピン軌道相互作用を起源とするZBの検証を行った.すなわち,狭ギャップ半導体であるInAs量子井戸中の二次元電子系に生じるZBを,量子ポイントコンタクト(QPC)を電子の注入電極と収集電極に使い,比較的大きな試料に生じる再現性のある伝導度ゆらぎ(不規則な磁気抵抗)として検証した.QPCでは伝導度が量子化伝導度Gq≡2e2/h単位で量子化される.QPCを構成する系がRashba型スピン軌道相互作用を有していると,QPCの伝導度がちょうどGqである時,これを通過する電子のスピンは高い偏極度で偏極される.これを注入時の初期状態準備に用いた.また,結晶や構造の乱れから来る散乱によりZBの蛇行を増幅して収集電極での分解能を補強している.</p><p>以上の道具立ての上で,二次元電子面に平行な磁場のZeeman効果によりギャップを変調することで,ZBの振動数を変調したところ,磁場に対して再現性を持つ電気伝導度のゆらぎ(不規則な振動)を観測した.良く似た伝導度ゆらぎをもたらす現象は他にも知られているが,ここで観測されたものは,ゆらぎの磁場強度・方向に対する特性,注入電極・収集電極の位置関係による変化,更に電極にQPCを使用せずスピン偏極しない電子で測定すると,同じ試料の電気伝導度からあっさりゆらぎが失われてしまうことから,当初期待されたZBによるものであることが明らかになった.</p><p>Dirac方程式を満たす波動関数は,(スピン自由度2)×(粒子反粒子自由度2)の4元を必要とし,後者(粒子反粒子)がオリジナルなZBの原因であるが,ここではスピン軌道結合を通して前者(スピン)がZBを生じさせていることになる.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 73 (11), 776-781, 2018-11-05

    一般社団法人 日本物理学会

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