堆積速度変化に基づく完新世における関東平野中央部の河道変遷

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タイトル別名
  • River channel migration deduced from the Holocene sedimentation rate change in the central part of the Kanto Plain, Japan

抄録

はじめに<br>荒川と利根川は最終氷期最寒冷期に荒川低地を流下していた(Matsuda 1974;菊池 1979).これらの河川が荒川低地を離れて,加須低地や中川低地へ流入するようになったのは4500~1500年前頃と推定されている(菊池 1979;平井 1983;江口・村田 1999など).しかし,先行研究では荒川と利根川がいつ頃荒川低地を離れて,加須低地や中川低地へ流入したのかを正確に把握できていない.また,近年,沖積低地で掘削されたオールコア堆積物に対して,堆積相解析やAMS法による放射性炭素(14C)年代測定を用いた研究が進められており,関東平野においても堆積環境の時間的変化を詳細に把握されるようになってきている(田辺ほか 2006a;小松原ほか 2010など).<br> 本研究では,関東平野の荒川低地,中川低地,東京低地,妻沼低地,加須低地を対象に,既存研究によるオールコア堆積物の解析・分析結果を集め,陸域の堆積環境における堆積速度の変化を指標として,各低地への河川の流入時期を推定し,関東平野中央部の河道変遷史を整理することを目的とする.<br><br>研究方法<br> 石原(2014)がまとめた関東平野中央部におけるボーリングコア試料のリストを基に関東平野で報告された14C年代値を整理した.合計36地点,443点の年代値をCALIB7.0.4を用いて暦年較正した.海洋リザーバ効果の補正については,研究対象地域のローカルリザーバ効果が不明であったため,ΔR=0とした.これらの年代値に基づいてそれぞれの分布深度から平均堆積速度を算出した.また,コア試料から認定された堆積相(田辺ほか 2006a;小松原ほか 2010など)を陸成層と海成層に大別し,時代ごとの堆積環境(海域,陸域)を推定した.これらを基に,過去9000年間における500年ごとの堆積速度および陸成層・海成層分布図を作成し,堆積速度の増減や堆積環境の変化を指標に各低地における荒川や利根川の流入時期を評価した.<br><br>結果と考察<br> 荒川低地中流域では9000 cal BPに陸成層が広がっていたが,8500 cal BPには海成層がみられることから,海進が進んでいたと考えられる.8000 cal BPになると再び陸成層が分布しており,海退に転じたことがわかる.時代を経るごとに陸成層の分布域が下流側に拡大していき,5000 cal BPには荒川低地下流部まで達した.一方,中川低地や加須低地下流部では9000 cal BPから3500 cal BPまで海成層がみられる.以上から,荒川低地は,中川低地や加須低地下流部よりも早い段階で海退が進んだと推定できる.この要因として,荒川低地では荒川と利根川という2つの大きな河川が流入して内湾の埋立てが進んだことが挙げられる.このことから,この時代においては荒川低地に荒川と利根川が流入していたと考えられる.<br> 荒川低地最下流地点における堆積速度は4500 cal BPに3.9 m/kyrとなるが,4000 cal BP以降は0.7 m/kyrと急激に減少している.一方,加須低地の堆積速度は,4500~3500 cal BPで0.8~1.0 m/kyr程度と小さいものの,3000 cal BPから1000 cal BPにかけて1.2 m/kyr,1.8 m/kyr,2.0 m/kyr, 2.2 m/kyr, 2.3 m/kyr と大きくなる.また,下流側の中川低地の堆積速度は,4500 cal BPから3500 cal BPで0.6 m/kyr,3000 cal BPで4.3 m/kyrと増加している地点がみられる.これらの堆積速度の増減が荒川や利根川の流路変化による土砂供給量の増減を示唆しているとすれば,荒川や利根川は4500 cal BP~4000 cal BP頃に荒川低地を離れた後,3500~3000 cal BPには加須低地へ流入を開始し,中川低地にも流れ込んだと考えられる.さらに,3000 cal BP以降,加須低地や中川低地への土砂供給が活発化したと推定できる.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238095279872
  • NII論文ID
    130007628427
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_109
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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