アジアモンスーン域における熱帯低気圧と降水の長期変動

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  • Long-term variations of the relationship between tropical cyclone and precipitation over the Asian monsoon region

抄録

1. はじめに<br><br> 台風に代表される熱帯低気圧は、熱帯地域はもちろんのこと、中緯度地域にも気象災害をもたらす。風に起因する災害は、風速によって規定されているため、強い台風が問題となる。一方で、降水量を介した災害も多く発生する。しかしながら、台風と降水の関連は十分に研究されていない。 <br><br> 日本では、河川の傾斜が急峻であるため、短時間降水量の強さが災害と直結する。一方で、熱帯アジアモンスーン域の多くでは、河川の傾斜が緩やかなため、降水量の積算量が重要になり、季節積算降水量の予測が求められる。中緯度では、豪雨の正確な予測が難しいことに起因して、災害の予測が難しく、一方で、熱帯では、季節予報の難しさにより災害の予測が難しい。地域により理由は異なるが、いずれの場合も台風の降水に起因する災害は、現在でも極めて重要な問題である。<br><br>2. 結果と議論<br><br>過去の研究として、インドシナ半島で2011年に起こった洪水時の大気循環場が調べられている(Takahashi et al. 2015)。2011年の洪水には、アジアモンスーンの台風などの熱帯擾乱が頻繁に通る経路である「モンスーントラフ」上で熱帯擾乱活動が極めて活発であった。この時に注目すべきことは、熱帯擾乱活動は、台風だけではなく、熱帯擾乱などの弱い熱帯低気圧も降水量変動に重要な要因となっていることである。<br><br> 台風は、熱帯低気圧の極めて強いものであるため、熱帯擾乱に比べて個数がかなり少ない。つまり実際の降水量変動にとって、多数の弱い熱帯擾乱は重要な要素となっていることを示唆している。しかしながら、弱い熱帯低気圧を含めた熱帯低気圧の降水量変動への寄与は、研究が非常に少ない。Takahashi and Yasunari(2008)では、インドシナ半島での降水量変動の弱い熱帯低気圧を含めた熱帯低気圧の寄与を見積もっており、それは、7割にも達するとしている。また、過去の研究で、インドシナ半島の降水量変動をインデックスとして大気循環場のコンポジット解析をすると、熱帯擾乱の描像が現れる。つまりこれは、降水量変動を支配する要因として、熱帯擾乱活動が卓越していることを意味している。<br> このような数少ない研究はあるものの、一般的には、強い台風による降水量の寄与は2割以下であるという先行研究がある。これは、少数の強いものの寄与よりも、多数の弱い熱帯低気圧が重要であることを示している可能性があるが、弱い熱帯低気圧を含めても降水量に対する寄与が小さい可能性もあるため、追加の調査が必要である。また、将来変化など(Kamizawa and Takahashi 2018)も含めて、さらなる検討が必要である。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238095297536
  • NII論文ID
    130007628633
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_74
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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