埼玉県北部の野菜産地における産地市場の存続意義

書誌事項

タイトル別名
  • Continuation Significance of Local Markets from Vegetable Production Region in Northern part of Saitama Prefecture

説明

日本の青果物流通において,産地側の農産物の集出荷は農協の果たす役割が大きい.その一方で,地域によっては任意組合や集出荷業者,産地市場,生産者組織などが集出荷に果たす役割も大きい.なかでも産地市場は,東京近郊の伝統的な野菜産地の形成において重要な役割を果たしてきた(新井,1996).しかし,近年では生産者の高齢化にともなう市場への入荷量の減少,その起因にもなってきた川下主導による野菜の価格形成動向などから,産地市場の果たす役割も変化してきているように思われる.都市近郊の野菜産地の存続可能性を検討するためにも,産地市場の経営やそこに集まる仲買人の経営動向や新たな取り組みの実態を明らかにする必要がある.<br> そこで本研究は,従来から産地市場が野菜産地の形成や新展開に役割を果たしてきた埼玉県北部を研究対象地域として,近年の野菜流通を取り巻く環境変化のなかで,産地市場(とそこに集まる産地仲買人)が果たしている流通上の機能や役割を分析し,産地市場の野菜産地における存在意義について考察することを目的とする.<br> 本研究は,次の方法で行った.第一に,2018年に6つの産地市場(深谷市が5市場,熊谷市が1市場)に対して,経営実態等について聞き取り調査を行った.第二に,産地市場や埼玉県北部の農業概要について,農林水産省や埼玉県農林部が公表する統計資料を活用した.<br> 埼玉県北部地域に立地する産地市場は,生産者からの委託集荷を原則としており,主な取扱品目はネギが中心である.出荷者や産地仲買人の所在地は,一部に群馬県を含んでいるものの,その多くが各市場の周辺地域(深谷市や熊谷市の北部)である.ネギの規格は,農協より緩やかであるが,最上級の規格品は高い価格が形成されている.産地市場では出荷手数料率が農協に比べて低く,また,生産者に対しては出荷奨励金を出している.不作による低価格時は,産地市場が設立した子会社が買い支えしている.これらが,現在でも農協が産地市場へ出荷するネギ生産者を共販に取り込めない要因となっている.また,産地市場では産地仲買人が群馬県も含めて複数の市場で調達を行う関係から,セリ時間帯の分散や産地仲買人に対して完納奨励金を支払うなどして取引を確保している.<br> ネギを中心とする農作物の出荷先は,産地仲買人を通じて,主に関東地方や冬季に野菜の入荷が減る北海道や東北,北陸の各地方における消費地市場である.その一方で,2000年代から,産地仲買人がカッティングなどの一次加工した上で,埼玉・群馬県内などの量販店や加工業者などへ出荷される割合も高くなっている.また,産地市場の子会社が,量販店や加工業者などへ出荷するなど,業務の多角化もみられた.産地仲買人から量販店などへネギなどが直接出荷される理由は,深谷ネギがブランド力をもっていることと,消費地市場を通して調達するよりも,複数の産地市場から確実に一定量を確保できるからである.これらが産地市場と産地仲買人の経営を維持している要因となっている.また,近年,生産者の高齢化などによるネギなどの出荷量の減少に対して,産地市場の中には,農家らと協力して農業法人を設立するなど新たな試みも行われている.<br> 以上のように,埼玉県北部の野菜産地は,1980年代から3つの流通団体が野菜の集出荷で競合し,産地の存立基盤が多様な側面で変化している.今回取り上げた深谷市とその周辺の産地市場は,現在もネギを中心に集出荷を行い,産地仲買人を通じて消費地市場へ転送している.この地域に複数の産地市場があることは,生産者の出荷先の選択や産地仲買人の農産物調達にとっても重要である.2000年代から量販店や加工業者などの需要に対して,産地市場が子会社を設立させ,ネギなどの一次加工を行い,対応してきている.しかし,産地内においては生産者や産地仲買人の減少が,産地としての供給力の維持にとって大きな課題になりつつある.こうした事態への対応は模索が続いている.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238097689472
  • NII論文ID
    130007628571
  • DOI
    10.14866/ajg.2019s.0_227
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ