書誌事項
- タイトル別名
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- Surface Acoustic Waves Connecting Light and Microwaves
- 最近の研究から 表面弾性波がつなぐ光とマイクロ波
- サイキン ノ ケンキュウ カラ ヒョウメン ダンセイハ ガ ツナグ ヒカリ ト マイクロハ
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説明
<p>列車のレールに耳をあてると,遠くを走る列車の音が聞こえることを知っている読者もいるだろう.金属でできたレールの中では音は遠くまで伝搬する.固体中の音波の中で「最も遅い」ものをレイリー波と呼び,この波は物体表面上をほとんど減衰することなく伝搬することが知られている.こうしたレイリー波などの表面弾性波をエレクトロニクスデバイスに組み込む試みは70年代から盛んに行われている.音速は光速に比べてずっと遅いため,同じ周波数の音波の波長は電磁波のものに比べておよそ5桁も短く,デバイスも非常に小型になる.こういった特徴により,携帯電話用のマイクロ波フィルターなど,小型音波デバイスがさまざまな形で利用されている.</p><p>近年になり,表面弾性波の量子レベルでの操作が着目されている.高い周波数と長い寿命を併せ持つ表面弾性波は,少ない熱励起と長いコヒーレンス時間により,それ自体としても量子系として優れた特徴を持っている.また,さらにピエゾ効果などの弾性効果を利用することで,固体デバイス中の様々な自由度と結合させることができるため,異なる量子系を結ぶための架け橋としての役割が期待されている.2014年には超伝導回路で構成された人工原子に表面弾性波フォノンを吸収させる実験が報告された.その他にも量子ドットや固体中の電子スピンなどと組み合わせた,表面弾性波を用いた量子デバイスの研究が広くなされるようになってきた.</p><p>上記のように異なる量子系を結合させた系をハイブリッド量子系と呼ぶ.機械振動子と電磁波の結合を利用する量子オプトメカニクスや,原子と光を相互作用させる共振器量子電磁力学など,多岐にわたるハイブリッド系が研究されている.ハイブリッド量子系は,異なる量子系の利点を互いに活かすことで,量子情報技術の発展に貢献することができる.このようにして,量子レベルの感度で物理量を測るセンサーや,量子中継器や量子メモリといった量子コンピュータの要素技術など,様々な研究が報告されている.</p><p>筆者らのグループにおいても,超伝導量子回路を表面弾性波と組み合わせたハイブリッド量子系の研究を行っている.最近の研究では,表面弾性波・超伝導量子ビット・マイクロ波共振器からなるハイブリッド量子系を実現し,その系を利用した表面弾性波の超高感度測定に成功している.こうしたハイブリッド量子系の研究のさらなる発展により,表面弾性波を量子レベルで扱うことができるようになり,その量子としてのフォノンの様々な量子状態制御や超伝導量子ビットとの量子もつれの生成,また量子メモリの開発など,より発展的な量子ハイブリッド系の実験につながると考えられる.</p><p>筆者らは,さらに表面弾性波とレーザー光の相互作用制御や,それらを用いたマイクロ波–光量子変換器に向けた研究に取り組んでいる.音波と光の光弾性効果による結合を光共振器によって強めることで,光を用いた表面弾性波の量子レベルの制御,またマイクロ波–光間の量子変換器など,量子インターフェイスとしての応用を考えることができる.</p>
収録刊行物
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- 日本物理学会誌
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日本物理学会誌 73 (12), 852-858, 2018-12-05
一般社団法人 日本物理学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390564238101377664
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- NII論文ID
- 130007666504
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- NII書誌ID
- AN00196952
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- ISSN
- 24238872
- 00290181
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- NDL書誌ID
- 029375141
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- NDL
- CiNii Articles
- KAKEN
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可