ビタミンK 依存性タンパク質プロテインS―機能と病態との関連―

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  • Vitamin K-dependent protein S: Function and etiological significance

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<p>要約:ビタミンK 依存性タンパク質protein S(PS)は,主に肝細胞で産生されるが血管内皮細胞,血管平滑筋細胞,巨核球なども産生する.血漿中PS 濃度は約320 nM で,約60%は補体系制御因子C4b-binding protein(C4BP)と複合体を形成し,約40%が遊離型として存在する.血液凝固反応が開始すると,PS は陰性に荷電したリン脂質膜に結合してactivated protein C(APC)によるFVaとFVIIIa の失活化を促進するが,遊離型PS のみがAPC cofactor 活性を示す.われわれは,系統的な血栓性素因診断から明らかになったPS 活性低下の重要性を発端として,様々な観点からPSについて研究を続けてきた.まず,PS Tokushima(PS p.Lys196Glu)がII 型PS 欠乏症を呈するPS遺伝子多型であり,健常人の約50 人に1 人が変異アレル保有者で,深部静脈血栓症の相対リスクを約4 倍上昇させることを明らかにした.動物細胞を用いた発現実験や血小板から抽出したPS mRNA の解析により,血栓症患者に同定したPS Tokushima などのPS 遺伝子変異について,PS 活性低下の分子機序の解明を試みた.凝固法によるPS 活性測定はPS-C4BP 複合体解離などの変動要因が大きいことから,その影響を除外した合成基質法による総PS 活性測定法とLatex 凝集反応による総PS 抗原量測定法を開発し,高い精度でPS Tokushima 変異保持者を同定できることを確認した.日本,韓国,シンガポール,ハンガリー,ブラジルの研究者との共同研究により,PS Tokushima は日本人のみに,PC p.Lys193del は日本人,韓国人,漢民族に,PC p.Arg189Trp は漢民族,マレー人に高頻度に同定されたが,いずれもハンガリー人,ブラジル人には同定されなかったことから,モンゴロイドがコーカソイドから分かれた後にこれらの遺伝子変異が出現した可能性が示唆された.2017 年に「特発性血栓症(遺伝性血栓性素因によるものに限る.)」が指定難病(No.327)に認定され,PS 欠乏症,antithrombin 欠乏症,protein C 欠乏症により血栓症を発症し重篤な機能障害を来した患者への医療費助成が開始している.さらに,1)肝細胞におけるPS 遺伝子の発現調節:転写因子Sp1 およびHNF3 の同定,resveratrol やgenistein などの植物エストロゲンによる発現抑制,2)PS およびPS 類似タンパク質のGas 6 によるTAM 受容体の活性化,3)血中PS 抗原量の正の予測因子としてのapo C-II の同定,などを明らかにしてきた.PS はAPC cofactorとして発見されたため血液凝固制御因子として主に解析されてきたが,TFPIαのcofactor としての機能やTAM 受容体のリガンドとしての炎症,免疫,腫瘍増殖制御など多様な機能が注目されており,PS 研究のさらなる発展が期待される.</p>

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