不動によって生じる骨格筋内のマクロファージ集積の機序
抄録
<p>【はじめに】</p><p> 骨格筋は1・2週という短期の不動状態に曝すだけで伸張性が低下し,筋性拘縮に発展することが知られている.そして,筋性拘縮の病態には骨格筋におけるコラーゲンの増生,すなわち線維化の発生が関与するとされ,そのメカニズムに関わる分子機構にはマクロファージの集積を発端とした線維化関連分子の賦活化が関与するとされている.つまり,筋性拘縮の発生メカニズムに関わる分子機構の上流においてマクロファージの集積は重要事象といえるが,この機序はこれまで明らかになっていない.そこで,本研究では不動によって生じる骨格筋内のマクロファージ集積の機序を解明することを目的に,以下の実験を行った.</p><p>【方法】</p><p> 実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット20匹を用い,両側足関節を最大底屈位にてギプスで1,2週間不動化する不動群(各5匹,計10匹)と同週齢まで通常飼育する対照群(各5匹,計10匹)に振り分けた.各不動期間終了後は両側ヒラメ筋を採取し,以下のパラメーターについて検索した.具体的には,マクロファージのマーカーとなるCD11bに対する免疫組織化学染色を実施し,その陽性細胞を算出するとともに,マクロファージの走化性の活性化因子であるMCP-1のmRNA発現量を検索した.また,筋核のアポトーシスを同定する目的でTUNEL染色を実施し,筋核100個あたりのTUNEL陽性細胞を算出した.そして,筋線維萎縮の発生状況について検索する目的で,各筋試料につき100本以上の筋線維について筋核数,筋線維横断面積,ならびに一つの筋核が制御する細胞質領域である筋核ドメインを算出した.</p><p>【結果】</p><p> 不動群のCD11b陽性細胞数とMCP-1 mRNA発現量,ならびにTUNEL陽性細胞数は各不動期間とも対照群より有意に高値を示したが,不動期間の違いによる有意差は認められなかった.不動群の筋核数ならびに筋線維横断面積は各不動期間とも対照群より有意に低値を示し,筋線維横断面積においては不動2週が不動1週より有意に低値を示した.さらに,不動群の筋核ドメインは不動1週では対照群との有意差を認めず,不動2週で対照群より有意に低値を示した.</p><p>【考察・結論】</p><p> CD11b陽性細胞数ならびにMCP-1mRNA発現量の結果から,不動状態に曝された骨格筋においてマクロファージが集積することは間違いない事象といえる.そして,この機序を探る目的で筋核の動態を検索した結果,不動1週でTUNEL陽性細胞数の増加,筋核数の減少,筋線維萎縮の発生を認めた.つまり,1週という短期の不動状態に曝された骨格筋では筋核のアポトーシスが誘導されることで筋核が減少し,このことが筋線維萎縮の発生に直接的に影響をおよぼしていると推察される.そして,マクロファージの集積はアポトーシスが生じた筋核に制御されていた細胞質領域の処理のために生じる事象と推測され,このことを発端として線維化関連分子が賦活化し,線維化,すなわち筋性拘縮が惹起されるのではないかと考えられる.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本実験は長崎大学動物実験委員会で承認を受けた後(承認番号:1404161137),同委員会が定める動物実験指針に準じ,長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.</p>
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 46S1 (0), I-149_1-I-149_1, 2019
公益社団法人 日本理学療法士協会
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390564238110929536
-
- NII論文ID
- 130007694149
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可