急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対して人工呼吸器管理、膜型人工心肺(ECMO)実施後、ICU関連筋力低下(ICU-AW)による筋力低下を呈した患児への理学療法経験
説明
<p>【はじめに】</p><p>近年、集中治療室における超急性期のリハビリテーション(リハ)において、従来の廃用症候群とは異なった病態であるICU-AWに対するリハの有用性が注目されているが、小児分野、特に幼児においての報告は非常に少ない。今回、ARDS後にICU-AWと診断された患児の理学療法を経験する機会を得たので報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>2歳の男児。出生歴、発育歴は問題無し。感染を契機に嘔吐から誤嚥に至り、誤嚥性肺炎と診断。その後急速に病状悪化し、当院に緊急搬送され、ARDSと診断される。入院日より人工呼吸器管理、ECMO実施。入院15日目の神経伝導速度検査の結果、下肢末端側に振幅低下が認められ、軸索型神経障害の所見と長期間の重症管理が続いたことからICU-AWと診断される。</p><p>【経過】</p><p>入院初日~7日目までECMO実施。9日目に抜管し高流量酸素鼻カヌラ(HFNC)管理となり、同日から無気肺予防と、全身の筋力低下による運動障害に対して運動機能の向上を目的に理学療法を開始した。開始当初は全身の筋力低下が顕著で、ベッド上での自動運動は頭部回旋運動、手指・肘関節屈曲、膝関節屈曲、足関節底背屈が何とか可能なレベルであった。特徴的であったのが下肢において筋力低下が著しく、足関節底背屈以外はMMT1~2程度の筋力しか有していなかった。バギーを使用した座位練習より開始し、次いで床座位、椅座位、端座位と段階を上げていった。15日目にICUから一般病棟に転棟してからは病棟内のプレイルーム内で座位練習、及び立位練習を行った。16日目HFNC離脱してルームエアーとなり、18日目に自力での床座位保持が可能となった。この頃から下肢の自動運動が飛躍的に増え、股関節、膝関節の抗重力運動も盛んに認められるようになった。23日目よりリハ室にてバルーン等を使いながら立位、バランス練習を行い、下肢での体重支持を積極的に促した。また、練習の中では遊びの要素を入れながら飽きさせないように、かつ楽しんで立位、バランス練習を実施できるよう工夫しながらリハを進めた。30日目よりつかまり立ちを認め、39日目に独歩開始し、53日目に退院となった。退院時は手引き歩行で約50mの連続歩行が可能となった。また、退院時の神経伝導速度検査は上下肢共に正常範囲内であった。</p><p>【考察】</p><p>ICU-AWを発症した症例にどの程度の負荷量でどのようなトレーニングや運動療法が有効なのかはまだ確立されていない。幼児のような低年齢においては、自覚症状を他者に伝えることは困難であるので、本症例では病棟と母への聞き取りでリハ翌日の体調の変化や日中の様子を確認し、理学療法の負荷量と日々のプログラムを設定した。また、本症例において、全身の筋力低下に対するアプローチとともに、小児の理学療法の特徴を踏まえ、症例の発達段階と今後の運動発達を考慮したプログラムを展開した結果、退院時には手引き歩行及び短距離の独歩獲得することができたと考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に基づき、患児の両親に本発表の主旨を説明し、同意を得た。</p>
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 46S1 (0), J-82_1-J-82_1, 2019
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390564238110952832
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- NII論文ID
- 130007694418
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可