高齢の頚髄不全損傷者一症例における発声を用いた排痰介助指導について

DOI
  • 宮下 創
    独立行政法人地域医療機能推進機構星ヶ丘医療センター リハビリテーション部 森ノ宮医療大学保健医療学研究科保健医療学専攻
  • 千葉 一貴
    独立行政法人地域医療機能推進機構星ヶ丘医療センター リハビリテーション部
  • 宮澤 明子
    独立行政法人地域医療機能推進機構星ヶ丘医療センター リハビリテーション部
  • 堀 竜次
    森ノ宮医療大学保健医療学研究科保健医療学専攻

抄録

<p>【はじめに・目的】</p><p>近年、高齢の頚髄不全損傷者が増加している。加齢に伴う嚥下機能の低下に加え、頚髄を損傷することで嚥下機能障害に拍車がかかることは容易に想像できる。臨床では食後に排痰介助をすると食物残渣が喀出される症例を度々経験する。自宅退院後には家族による排痰介助が必要となってくる。</p><p>今回、食後に排痰介助を要した頚髄不全損傷者の家族へ発声を用いた排痰介助指導を行ったため報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>症例は70歳代の男性。某日、仕事中に脚立から転落し救急搬送され第6-7頚椎脱臼骨折による頚髄損傷と診断を受ける。受傷時のASIA Impairment Scale(以下、AIS)はAであった。34病日、当院回復期病棟へ転院され理学療法開始となる。当院転院時のASIAの運動スコアは上肢/下肢:22/0、NLIはC5、AISはBであった。SCIMは16/100であり重度介助を要した。嚥下障害のスクリーニング検査では異常を認めなかった。理学療法では排痰介助の様子を家族に見てもらい必要性を説明した。</p><p>【経過】</p><p>初回排痰介助指導は87病日に実施。排痰介助はお互いのタイミングを合わせることが重要であり、タイミングを取る方法として発声を用いた。適切に排痰介助が出来ているかの評価は、排痰介助時の最大呼気流速(以下、PCF)を用いて評価した。①介助なし(以下、①)、②PT介助(以下、②)、③家族介助(以下、③)の3条件を各3回実施し最大値で評価した。また排痰介助後の主観的な痰の貯留感(0:痰が全く残っていない−10:痰が全て残っている)をNRSで評価した。呼吸機能評価では%肺活量、1秒率、PEFRを算出した。</p><p>結果は①・②・③の順に記載。PCF(L/min)は140・280・230であった。自己排痰の可否を判別するPCF水準は240L/minと報告されており(山川ら.2010)、①と③においては排痰に必要なPCF水準を満たしていないことが分かった。NRSによる主観的な痰の貯留感は4・0・4であった。呼吸機能検査では、%肺活量は56.3%、1秒率は89.4%、PEFRは3.43L/secであった。家族による排痰介助を観察すると痰が喀出される前に胸郭の圧迫を解除してしまう様子が確認できた。これらの結果を踏まえて再度排痰介助指導を行った。</p><p>指導期間は11日間、98病日に再評価を実施した。PCF(L/min)は170・295・270、NRSによる痰の貯留感は4・0・3となった。%肺活量は47.4%、1秒率は97.28%、PEFRは4.49L/secとなった。</p><p>【考察】</p><p>今回、発声を用いた排痰介助指導を実施し家族でも自己排痰に必要なPCF水準を超えることができた。排痰介助指導で発声を用いる利点は、聴覚からのフィードバックが即座に得られるため、咳嗽のタイミング学習や適切な発声ができたかが発声音量で判断でき、介助者および被介助者ともに共有しやすいことにある。</p><p>また呼吸機能検査では、痰の喀出に関与するPCF、1秒率、PEFRが向上したことで痰の喀出能力の改善を認めた。この結果は、発声および咳嗽練習を継続することでPCF、1秒率、PEFRを改善させる可能性を示している。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>症例には、本発表の内容を紙面および口頭にて説明し、書面にて同意を得た。なお本発表は当院倫理委員会(承認番号HG-IRB1861)にて承認されている。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), E-210_1-E-210_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238111218304
  • NII論文ID
    130007693053
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.e-210_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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