自動車運転に必要な空間認識能力の検証

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • ―運転習慣の有無に着目して―

抄録

<p>【目的】</p><p>自動車運転再開を希望する脳卒中者は,警察庁の運用基準に従い,臨時適正検査後に運転再開できる。高次脳機能障害は「認知症」に係る規定に従うため,高次脳機能検査を用いた運転可否判断の報告は数多くされている。しかし,自動車運転に必要な身体感覚である空間認識能力を検討した研究は無く,車両感覚に関する報告はない。本研究は,脳卒中者を対象とする検証を最終目的とし,前段階として健常成人における空間認識能力を運転習慣の有無で比較検証した。</p><p>【対象】 </p><p>運転習慣のある健常成人30名(男性17名,女性13名,平均年齢25.9±2.9歳,免許保有期間84.4±34.9ヶ月),および運転習慣の無い健常成人15名(男性6名,女性9名,平均年齢21.9±0.8歳,免許保有期間37.6±7.9か月)。なお,“運転習慣の無い”とは,運転頻度が年5回以下の者とした。</p><p>【方法】</p><p>横幅50㎝の椅子を三脚用い,横幅を50㎝,100㎝,150㎝と変更可能にする。対象者は1つの椅子に正面を向いて座る。椅子の設置位置によって運転席条件,助手席条件を設定した。パネル2枚を椅子から9m離れた場所に3m間隔で配置する。パネルはそれぞれ固定パネル,移動パネルとし,固定パネルに向かって移動パネルが水平移動する。対象者は椅子の横幅とパネルの間隔が同じと判断した時点で合図する。その時点のパネル間の距離を測定し,椅子の横幅との誤差の絶対値を空間認識誤差とし,椅子の横幅50㎝,100㎝,150㎝で各3回,計9回をランダムで測定し,平均値を算出した。</p><p> 運転席条件:固定パネルは椅子の右端の延長線上にパネルの左端が接する位置とし,対象者の視界の左側に移動パネルを設置する。椅子の横幅は座っている椅子の左側の椅子の増減で変更する。助手席条件は運転席条件と左右逆の条件で実施した。</p><p>【統計解析】</p><p>椅子の横幅(50㎝,100㎝,150㎝)に関して,運転習慣の有無,椅子の位置(運転席条件,助手席条件)の2要因について二元配置分散分析を行った(R2.8.1,有意水準5%)</p><p>【結果】</p><p>150㎝条件において,運転習慣の有無の主効果は認められなかったが,椅子の位置の主効果が認められ,運転席条件での空間認識誤差は有意に小さかった。運転席・150㎝条件における空間認識誤差は,習慣有で15.0±14.4㎝,習慣無で22.7±20.0㎝だった。誤差の実測値でマイナスとなった割合は習慣有で20%,習慣無で20%だった。</p><p>【考察】</p><p>遠位空間での物体間の距離について,運転席を模した環境で15㎝前後という精度で認知している結果となった。運転習慣の有無での差が無いことは,対象者全員が運転経験を持つことが要因と考えられる。実測値においてマイナスになるということは,狭い通路で車体を擦るなどの事故を発生させる可能性があるが,事故を起こした者はいなかった。移動行動時と静止立位時で異なる空間認知過程が働いている可能性を示唆した先行研究があり,自動車運転においても同様の認知過程が生じているために事故を回避していると考えられる。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>弘前大学大学院保健学研究科倫理委員会の承認を受けて実施した(整理番号:2016-045)</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), E-95_1-E-95_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238111227008
  • NII論文ID
    130007693126
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.e-95_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ