暗黒エネルギーと修正重力理論 (解説)

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タイトル別名
  • Dark Energy and Modified Gravity
  • 暗黒エネルギーと修正重力理論
  • アンコク エネルギー ト シュウセイ ジュウリョク リロン

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抄録

1990年代の遠方のIa型超新星の観測から,宇宙の加速膨張が発見された.現在の宇宙を加速膨張させる源は,その正体が明らかになっていないことから暗黒エネルギーと呼ばれ,現在の宇宙の全エネルギーのうち約70%を占めることが観測的に知られている.宇宙背景輻射(CMB)やバリオン音響振動(BAO)などの独立した観測データによっても,暗黒エネルギーの存在が裏付けられている.暗黒エネルギーは実効的に負の圧力を持ち,重力的な収縮をせずに斥力のように働く特殊な存在であり,バリオンのような通常の物質ではその起源を説明できない.その起源の候補として最も単純なものは,宇宙項と呼ばれる一定のエネルギー密度ρを持つものであり,宇宙項による圧力P(斥力)はP=-ρ(<0)で与えられる.場の理論で現れる真空のエネルギーは宇宙項と同様の性質を持つが,前者の典型的なエネルギースケールが,暗黒エネルギーのスケールと比べて桁違いに大きいことから,既知の素粒子論などで宇宙項の起源を矛盾なく説明するのは一般に非常に難しい.暗黒エネルギーの性質は,その圧力P_<DE>とエネルギー密度ρ_<DE>の比である,状態方程式w_<DE>=P_<DE>/ρ_<DE>で特徴づけられる.w_<DE><-1/3のときに宇宙は加速膨張し,宇宙項はw_<DE>=-1に相当する.w_<DE>が一定のとき,最新のCMBとBAOのデータによる統合解析から,95%の確からしさ(95%CL)で,w_<DE>=-1.13^<+0.24>_<-0.25>という制限がついており,宇宙項は許容範囲内にある.CMBとIa型超新星のデータによる解析では,w_<DE>=-1.13^<+0.13>_<-0.14>(95%CL)と制限され,この場合にはw_<DE><-1の方が宇宙項より好まれている.暗黒エネルギーの候補の一つとして,スカラー場のポテンシャルエネルギーにより加速膨張を起こすクインテッセンスという模型があるが,その場合はw_<DE>>-1である.場の運動エネルギー項の符号が負のときには,w_<DE><-1が実現するが,これはゴーストという状態に対応し,真空が不安定となる問題を抱えている.もし重力理論が,宇宙膨張が関係するような大スケールで一般相対論から変更されるとすると,ゴーストが現れずにw_<DE><-1を実現することが可能である.一方,地球近傍および太陽系で重力法則を検証する実験が数多く行われている.例えば,一般相対論がその基盤としている等価原理に関して,その破れの度合いが非常に小さく制限されている.つまり,巨視的なスケールでの重力理論の修正によって加速膨張を引き起こす模型は,同時に太陽系内で一般相対論的な特徴を回復する必要がある.そのような要請を満たす有効な模型の構築は精力的に行われている.修正重力理論では,銀河のような宇宙の大規模構造の形成が一般相対論と比べて異なるため,銀河分布や重力レンズの観測などから,太陽系よりもはるかに大きい領域での重力法則の検証と,それによる模型の選別が可能である.今後の観測の更なる進展に伴い,様々なスケールでの修正重力理論の兆候を探ることは,宇宙の加速膨張の起源に迫る上で重要な意味を持つ.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 69 (7), 444-452, 2014-07-05

    一般社団法人 日本物理学会

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