重複した高次脳機能障害にも関わらず歩行を獲得した重症脳塞栓症の一例

DOI
  • 鈴木 悠
    国際医療福祉大学塩谷病院 リハビリテーション室
  • 栗原 早希
    国際医療福祉大学塩谷病院 リハビリテーション室
  • 塙 瑞穂
    国際医療福祉大学塩谷病院 リハビリテーション室
  • 小黒 惠司
    国際医療福祉大学塩谷病院 脳神経外科
  • 田代 隆
    国際医療福祉大学塩谷病院 脳神経外科

抄録

<p>【はじめに・目的】</p><p>左MCA領域の広範囲の脳梗塞により、全失語、右半側空間無視(以下、USN)、失行など高次脳機能障害を呈した症例である。USNをはじめとした高次脳機能障害は、運動療法の妨げとなり、運動学習や動作学習が遅延させるだけでなく、ADL低下の原因にもなる。この症例に対し、長下肢装具(以下、LLB)を使用した自動運動による歩行訓練を早期から積極的に行うことで、歩行獲得したため報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>50代男性。左中大脳動脈閉塞症により脳ヘルニアを発症、減圧術を施行され、人工呼吸器管理となった。19病日で気管挿管を抜去。20病日の脳CT画像より広範囲の出血性梗塞を認めるが、側脳室体部レベルおよび内包後脚での錐体路領域は残存。埋め込み式除細動器があり、MRI画像は禁忌。重度の上下肢運動麻痺を呈するが、歩行獲得のための随意性の回復は可能と予測。27病日で車椅子乗車を開始した。初期評価の時点での理学療法評価はBrunnstrom Recovery Stage(以下、BRS)は上肢Ⅰ、手指Ⅰ、下肢Ⅰ。表在・深部覚は脱失~重度鈍麻。高次脳機能障害として全失語、USN、失行を認めた。FIMは点18(運動12点、認知5点) 。病前ADLは自立していた。</p><p>【経過】</p><p>35病日LLB歩行を全介助で開始し、BRS下肢Ⅱ。95~110病日LLBカットオフし、短下肢装具(以下、SLB)と杖歩行訓練を開始。120病日LLB介助なしで歩行可能SLB見守り~軽介助、階段昇降も軽介助で実施可能。130~140病日SLB、4点杖使用見守りにて歩行可能。最終評価として200病日、BRSは上肢Ⅰ、手指Ⅰ、下肢Ⅱ。表在・深部覚は重度鈍麻。高次脳機能障害として全失語が残存、USN、失行については改善がみられた。歩行はSLB、4点杖使用にて最大20分以上連続で可能。FIMは52点(運動41点、認知11点)となった。</p><p>【考察】</p><p>本症例は、左MCA領域の広範囲の梗塞により重度の運動麻痺と全失語、USNを呈し、言語的な指示は理解困難であった。しかし、脳CT画像より側脳室体部レベルおよび内包後脚での錐体路領域残存していることを確認することが出来た。術後全身状態が安定した後、早期からLLBを使用し、全介助にて自動歩行を実施。CPGの賦活、麻痺側下肢への全荷重を行うことで網様体脊髄路をはじめとした内側運動制御系の賦活により、立位姿勢、歩行を獲得することが出来た。</p><p>全失語を呈していたが、状況判断は良く、危険行動は見られなかったため、その他ADL動作は見守り~一部介助レベルで行うことが可能となった。本症例を通して、重度脳梗塞、重複した高次脳機能障害を呈し、随意運動が困難な場合においても、LLBによる自動歩行は、早期から取り入れられる運動療法として有効であり、歩行獲得につながることが示唆された。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に基づき、対象者の家族に対して説明と同意を得た。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), E-211_1-E-211_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238111590272
  • NII論文ID
    130007693059
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.e-211_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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