壊死誘導が主である抗がん剤の使用はHMBG1を増加させ骨格筋委縮を惹起する

DOI
  • 川原 勲
    奈良県立医科大学 分子病理学 阪奈中央病院 リハビリテーション科
  • 宮川 良博
    奈良県立医科大学 分子病理学 阪奈中央病院 リハビリテーション科
  • 森 拓也
    奈良県立医科大学 分子病理学 阪奈中央病院 リハビリテーション科
  • 國安 弘基
    奈良県立医科大学 分子病理学

抄録

<p>【目的】がん化学療法に伴う骨格筋の委縮は多くの患者でみられ、抗がん剤の治療中の骨格筋萎縮は死亡率を増加させる。骨格筋萎縮の原因は食事量の低下、疲労、活動量低下などが考えられるが、抗がん剤の直接的影響の報告は見当たらない。今回、骨格筋障害の原因として、化学療法に伴う腫瘍壊死の影響を検討した。</p><p>【方法】CT26マウス大腸がん細胞を同系のBALB/cマウスに接種し、皮下腫瘍を形成したのち、3週目にドキソルビシン(DXR)とトリコスタチンA(TSA)を腫瘍内投与した。4週目に組織化学的に腫瘍壊死を検索し、腫瘍最大面積にしめる割合を求めた。さらにHMGB1の骨格筋へ直接作用を検討するため、BALB/cマウスに対して3週間にHMGB1(90μg/mouse)を投与した。</p><p>【結果】下腿三頭筋重量を測定するとDXR投与群では、非投与群より10%減少していた。3週間にHMGB1(90μg/mouse)を投与した結果、下腿三頭筋重量は9%減少しており、HMGB1の血中濃度は腫瘍壊死面積と相関していた。骨格筋ではAutphagy関連タンパクのBeckin1、p62が誘導され、ユビキチンレベルも上昇していた。同モデルにHMBG1抗体を投与するとHMGB1によっておこる骨格筋委縮はコントロールレベルに回復した。</p><p>【考察】本研究ではCT26マウス大腸癌細胞に対するDXRとTSAの2つの抗がん剤の効果を示した。組織学的検索ではDXRはネクローシス、TSAではアポトーシスが確認された。DXRとTSAを腫瘍内に投与したところTSA投与群よりDXR投与群の腫瘍増殖スピードは速く、腫瘍内のHMGB1濃度をみるとTSAに較べDXR投与群が有意に高いことが確認された。これはHMGB1が壊死細胞から放出され、残存腫瘍細胞の再増殖を促進していることを示している。癌細胞を接種していないマウスにHMGB1を投与し下腿三頭筋の変化を検索するとコントロール群に較べ、有意に筋委縮が確認された。これはHMGB1が骨格筋の萎縮に影響を与えると推測される。下腿三頭筋のHE染色をみるとHMGB1群では染色性が不規則で染色性の低下した筋束がみられ、ユビチキン化はHMGB1処理群が筋繊維にびまん性にユビチキン化が亢進していた。オートファジー関連タンパクをみるとオートファジー抑制型のリン酸化型mTORが低下、オートファジー実行タンパクのLC3・p62・Beclin1は増加していた。以下の結果よりHMGB1によってオートファジーが亢進していることが確認された。腫瘍のないマウスにHMGB1を投与、さらにHMGB1抗体を追加投与するとヒラメ筋の重量減少、タンパク含有量減少、ユビチキンレベル増加、p62発現がコントレールレベルとなり、HMGB1標的治療により化学療法に伴う骨格筋委縮を抑制できる可能性が示唆された。</p><p>【結論】ネクローシスを誘導する抗がん剤は核内よりHMGB1が放出され骨格筋萎縮がおこりQOLを低下させる可能性が示唆された。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究は奈良県立医科大学動物実験管理規定第14条に基づき動物実験計画申請の承認を得ている。また、本動物実験は人道的エンドポイントを設け、動物への苦痛を最小限に配慮している。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), I-152_1-I-152_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238111681408
  • NII論文ID
    130007694154
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.i-152_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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