逆磁気光学効果を用いた偏光 : 磁化振動の3次元転写(最近の研究から)

書誌事項

タイトル別名
  • Three-Dimensional Transfer between Optical Polarization and Magnetic Oscillations by Inverse Magneto-Optical Effect(Research)
  • 逆磁気光学効果を用いた偏光 : 磁化振動の3次元転写
  • ギャクジキ コウガク コウカ オ モチイタ ヘンコウ : ジカ シンドウ ノ 3ジゲン テンシャ

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抄録

磁気光学効果は1845年にファラデーにより最初に発見され,その後マクスウェルによって説明された,非常によく知られた現象である.磁場により光の偏光面が回転するファラデー効果や,光の複屈折が生じるコットン・ムートン効果などの磁気光学効果は「磁性体が光に作用する効果」である.これに対して,「光が磁性体に作用する効果」である逆磁気光学効果も考えることができる.すなわち逆ファラデー効果と逆コットン・ムートン効果は,それぞれ円偏光と直線偏光の光によって物質内に有効磁場を生じる.しかし逆磁気光学効果を実現するためには高強度の光源が必要であり,実験的な観測は1960年にレーザーが発明されたことによって初めて可能となった.ファラデー効果と逆ファラデー効果,コットン・ムートン効果と逆コットン・ムートン効果は,それぞれ同一の自由エネルギーから導出できるため,互いに逆効果であると言える.逆磁気光学効果を用いると,光によって磁性体の磁化振動を制御できる.磁場印加などの他の制御法と比べて,光パルスを用いることの利点は,超高速・非接触・局所的に制御できることが挙げられる.また光には波長や偏光などの特性があり,これらを変えることによってさらに自由度の高い制御が可能になる.本稿では,光の偏光に着目して,いかにして光の任意の偏光情報を磁性体の磁化振動モードに転写し,それを別の光で読み取るかについて述べる.完全偏光した光線は,2つの直交する振動成分とそれらの位相差という3つの偏光自由度をもつ.これらはポアンカレ球面上の3つのストークスパラメータS_1,S_2,S_3で記述できる.3つの偏光自由度を使って磁性体を制御するには,磁性体の側も3つの磁化振動モードをもつことが理想的である.このような磁性体の例として六方晶反強磁性体YMnO_3が挙げられる.この物質は3つの磁気副格子をもち,これに対応して3つの直交するX,Y,Z磁化振動モードをもつ.ここに偏光ストークスパラメータがS_1,S_2,S_3成分をもつ励起光パルスを照射すると,それぞれXモード,Yモード,Zモードの磁化振動モードが誘起されることが確認された.これは光の3つの偏光自由度すべてが独立に磁化振動モードという形で転写できたことを意味する.時間遅延をつけたプローブ光パルスを用いることにより,この3つの磁化振動モードを独立に読み出すことができる.また,偏光が互いにねじれたダブル光パルスを用いることで,約1THzで回転運動する磁化振動モードを単結晶系で励起することにも成功した.この結果は,振動モードのそれぞれに重ね合わせの原理が成り立ち,ポアンカレ球上の任意の点で示される偏光をもつ光パルスの偏光情報の磁性体への書き込みと読み出しが可能であることを意味している.これらの成果は,偏光を整形することで,磁性体の磁化振動モードを非熱的かつコヒーレントに制御する技術の開発につながると期待される.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 70 (11), 840-844, 2015-11-05

    一般社団法人 日本物理学会

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