野球により生じた左大腿骨頸部疲労骨折の誘因に対して理学療法を実施した一症例

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抄録

<p>【症例紹介】 今回,左大腿骨頸部疲労骨折と診断された症例に対し,疲労骨折原因を特定し原因に対して介入を行った結果,競技復帰・再発予防を果たしたため報告する.</p><p> 本症例は高校入学後,野球部に入部し約3ヶ月経過した際,捕球(守備)練習中に左股関節周囲に疼痛出現.疼痛が増悪する一方であったため当院を受診した.</p><p>【評価とリーズニング】</p><p>機能診断トリアージ・理学療法適応の判断:画像所見において左大腿骨頸部疲労骨折を認めたが,その他の医学的情報・画像所見の結果や医療面接より中枢神経系が関与している可能性が低く,急激な体重減少・発熱・安静時痛もないことから,red flagを疑う所見が見られないため,疲労骨折部位へのストレスを禁忌とし理学療法評価・介入が可能であると判断した.</p><p>また,運動機能障害により疲労骨折が生じた可能性があるため理学療法の適応と判断した.</p><p>疼痛については,理学療法開始時NRS:0/10であり日常生活においても疼痛の訴えはなかった.</p><p>主訴:捕球(守備)練習のときに痛い</p><p>増悪因子:守備・捕球練習</p><p>軽減因子:安静,日常生活,ランニング・バッティングは痛みを感じない,</p><p>疼痛の日内変動:守備・捕球練習後より疼痛出現</p><p>既往歴:左膝オスグッド病(中学1年)</p><p>目指すべき目標:競技復帰(野球)・再発防止</p><p>疲労骨折が生じた運動・動作の抽出:大腿骨頸部疲労骨折の分類およびMRI所見より,左大腿骨頸部後内側方向に圧縮ストレスが繰り返し加わり受傷した可能性が高いと判断した.そこで,左大腿骨頸部後内側方向に圧縮ストレスが生じる動作を抽出すべく,運動機能検査を実施したが左大腿骨頸部後内側方向に圧縮ストレスを与える運動パターンは抽出できなかったため,競技特性に応じた動作評価が必要だと考え,捕球姿勢・動作検査を実施した.その結果,捕球姿勢においては,骨盤後傾位・腰椎後弯位・左股関節外転外旋位・左後方重心となっており重心線が左大腿骨頸部後内側方向に落ちていた.また,捕球動作検査においては,高い重心位置から捕球直前に急激に捕球姿勢となるため,低い重心位置から捕球姿勢に移る人と比較し左股関節への圧縮ストレスが増大していることが考えられた.この事から,捕球動作時に左大腿骨頸部後内側方向に繰り返し圧縮ストレスを与え疲労骨折が生じたと判断した.</p><p>捕球動作時に左大腿骨頸部後内側へ圧縮ストレスが生じる要因の抽出:捕球動作時に左大腿骨頸部後内側へ圧縮ストレスが生じる要因を漏れなく抽出すべく,まず解剖学的要因・生理学的要因・運動学的要因の三つに要因を細分化し評価を実施した.その結果,解剖学的要因・生理学的要因による可能性は低く,運動学的要因による可能性が高いと判断した.運動学的要因としては,股関節屈曲制限(殿筋群・ハムストリングスの伸張性低下,後方副運動低下),足関節背屈制限(腓腹筋・ヒラメ筋の伸張性低下),股関節筋機能障害(大殿筋遠心性収縮力低下,腸腰筋・外旋筋求心性収縮力低下)による不良捕球姿勢の継続および,股関節安定化筋の筋機能障害(外旋筋群・殿筋の求心性収縮力低下)・大殿筋腱の腱機能障害による左股関節衝撃吸収メカニズムの破綻により左大腿骨頸部後内側へ圧縮ストレスを与えたと判断した.</p><p>【介入内容および結果】</p><p>不良捕球姿勢の改善:伸張性低下を認めた殿筋・ハムストリングス・腓腹筋・ヒラメ筋に対し静的ストレッチング,股関節後方副運動低下に対し関節モビライゼーション,股関節筋機能障害に対し弱化筋へのエクササイズを実施した.</p><p>左股関節衝撃吸収メカニズムの改善:股関節筋機能障害に対し弱化筋へのエクササイズ,腱機能障害に対し筋・腱複合エクササイズを実施した.</p><p>また,不良捕球姿勢の改善・左股関節衝撃吸収メカニズムの改善および疲労骨折部位の骨癒合に伴い徐々に捕球練習を実施した.そして,捕球動作時に生じていた左大腿骨頸部後内側への局所的な圧縮ストレスが分散可能となったことを視覚的に確認後,競技復帰を果たした.</p><p>【結論】 本症例より,「練習・試合で受傷前と同等のパフォーマンスが発揮できている」・「競技復帰後,疼痛は一度も出現していない」と伺ったことから,非外傷性疲労骨折症例に対し疲労骨折原因を特定し,原因に対して治療を行ったことで競技復帰・再発予防を果たした.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本症例に発表の目的と内容を説明し,書面にて同意を得た.</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), H2-101_1-H2-101_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390564238111997824
  • NII論文ID
    130007693550
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h2-101_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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