病理診断サービスの空間特性と企業戦略

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タイトル別名
  • The spatial features and strategy of the pathological service
  • -株式会社パソネットを事例に-

抄録

<p>研究目的</p><p> 本研究では,病理診断の分野で新たなビジネスモデルを構築している,株式会社パソネット(以下,パソネット)を事例として,そのサービス提供の空間特性を明らかにすることを研究目的とする。病理診断とは,患者から診断に必要な病片を採取し,それを用いて患者の病状を生理学的に診断することである。例えば,ガン検診や内視鏡検査等でガンの疑いがあるとなった場合,ガンと思しき部分の組織片を採取して標本を作り,その細胞が実際にガン細胞であるかどうかを調べるのである。病理診断は,場合によっては生命の危機に直結する重病の診断を行う医療行為であり,極めて高度な知識・技術を要する。病理診断を行う医師を特に病理専門医(病理医)と呼ぶが,病理医の資格を持つ医師は限られており,多くの病院では,病理診断を外部の医療機関に依頼しなければない現状がある。</p><p></p><p>事例分析</p><p> パソネットは2012年8月1日に設立された静岡県の会社であり,資本金は4,000万円,従業員数12名,契約病理医5名(2016年4月現在)である。パソネットの役割は,病理医と病理医がいない,もしくは病理医は在籍しているが,諸般の事情によって病理診断を外部に委託する必要がある医療機関とをつなぐことである。パソネットは病院からの依頼を受け,患者の検体を受け取ると,検体を染色するなどの加工処理を行い,そのデジタル画像データを病理医に送り,病理医は診断結果をメールでパソネットに送信する。検体のパソネットへの輸送は,離島等を除き1日で可能である。従来の病理検査では病理医に検体を郵送し,結果を受け取っていたが,診断に必要な検体写真を画像データ化することで,診断結果の患者へのフィードバックも迅速化することとなった。また,標本データを病理医間で共有することも可能になり,病状によっては同時に複数の医師による診断を行うことも可能となり,診断結果の信頼性も高まることになった。</p><p> パソネットのサービスの特徴の一つは,サービス提供者である病理医の質にも着目したことである。すなわち,パソネットは病理医の中でも特に診断実績が豊富な医師と連携し,サービスを提供しているのである。パソネットに依頼する医療機関は,病理医が在籍しないクリニックや中小病院が多く,パソネットのサービスを利用することによって,大病院と遜色ないサービスを提供できるメリットがある。その結果,依頼した医療機関,患者の両者にとって満足の高いサービスとなる。</p><p> 医療サービスは量・質ともに地域的偏在が問題視されることが多いが,パソネットの事業は,高質の医療サービスを広範囲に提供することを可能にするという意味で,こうした医療が抱える問題に対して一定の解決策を提示することにもつながると考えられる。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390565134842601344
  • NII論文ID
    130007822300
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_65
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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