東京大都市圏の結婚出生力と人口移動

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  • Marital Fertility and migration in the Tokyo metropolitan area

抄録

<p>研究の目的 低出生率が続く日本の中で東京大都市圏(埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県)の出生率はとくに低い.これに関連して山内(2016)は,東京大都市圏の有配偶女性の結婚出生力は非東京大都市圏に比べて低く,その差は構成効果のみでは説明できず,文脈効果が存在することを明らかにした.しかし同研究では,人口移動の影響を分析モデルの中に取り入れていなかった.</p><p>他方,人口移動と結婚出生力の関係を検討した小池(2014)によれば,非三大都市圏から三大都市圏へ移動した有配偶女性の結婚出生力は,出生県と現住県がともに三大都市圏内の場合よりも低いことを指摘した.このため,東京大都市圏の有配偶女性の結婚出生力が非東京大都市圏よりも低いのは,東京大都市圏には移動経験者が多いことの影響である可能性がある.</p><p>以上を踏まえて本報告では,東京大都市圏の結婚出生力が人口移動とどのように関連しているのかについて検討する.</p><p></p><p>データと方法 本報告で用いるデータは国立社会保障・人口問題研究所が2016年に実施した第8回人口移動調査の個票である.分析対象は,世帯主ないし世帯主の配偶者であり,夫婦とも初婚の1940-1969年出生コーホートの女性であり,なおかつ使用する変数に欠損がないケースである(ケースの数は12,201).</p><p>分析では,有配偶女性のもつ子ども数を非説明変数とするポワソン回帰モデルを用いて,移動経験の有無を含めて社会人口学的な変数を統制したときに,東京大都市圏と非東京大都市圏との間には有配偶女性のもつ子ども数に差があるのかどうかを検討する.具体的に分析で用いた変数は,説明変数として現住地の都道府県を利用した地域変数(東京大都市圏と非東京大都市圏の2区分),統制変数として出生コーホート(1940-1949年,1950-1959年,1960-1969年の3区分),学歴(中学・高校,専門学校・短大・大学・大学院の2区分),結婚年齢(24歳以下,25-27歳,28-30歳,31歳以上の4区分),移動経験(出身県と現住県が同じ,出身県と現住県が違う(同じ圏域),出身県と現住県が違う(異なる圏域)の3区分)である.</p><p></p><p>結果と考察 分析の結果,次の3点が明らかになった.第1に,移動経験を統制しても東京大都市圏の有配偶女性の平均子ども数は非東京大都市圏よりも少なかった.第2に,移動経験の影響は,非東京大都市圏において出身県と現住県が違う(異なる圏域)場合に有配偶女性の平均子ども数を少なくする効果をもつが,東京大都市圏においてはそのような効果はほとんどみられなかった.第3に,東京大都市圏と非東京大都市圏との違いよりも,結婚年齢の違いの方が有配偶女性の平均子ども数に与える影響は大きかった.</p><p>以上の分析結果を踏まえるならば,移動経験の影響を統制した場合でも,東京大都市圏には非東京大都市圏よりも有配偶女性の結婚出生力が低くなるような文脈効果が存在するということになる.これは,東京大都市圏の有配偶女性の結婚出生力が低いのは東京大都市圏居住者に多く含まれる非東京大都市圏出身者の結婚出生力が低いからであるという説明は不十分なものであることを意味する.このことを補完するために追加的な分析を行ったところ,社会人口学的変数を統制した場合には,非東京大都市圏出身で東京大都市圏に居住する有配偶女性よりも東京大都市圏出身で東京大都市圏に居住する有配偶女性の方が結婚出生力は低かった.</p><p>したがって,非東京大都市圏に比べて東京大都市圏の有配偶女性の結婚出生力が低くなるような文脈効果がなぜ生じるのかについてのメカニズムを理解する上では,人口移動以外の要素を考慮する必要があることになる.これについては今後の課題としたい.</p><p></p><p>付記</p><p>本研究は,統計法第32条に基づき,国立社会保障・人口問題研究所の一般会計プロジェクト「社会保障・人口問題基本調査 第8回人口移動調査」(代表者:林玲子)の一部として個票を再集計したものである.</p><p>本研究の遂行にあたり,JSPS科研費基盤研究(C)「人口移動が結婚・出生に及ぼす影響に関する地理学的研究」(研究代表者:山内昌和,課題番号:17K01241,研究期間:2017年4月1日-2020年3月31日)の助成を受けた.</p><p></p><p>文献</p><p>小池司朗2014. 人口移動が出生力に及ぼす影響に関する仮説の検証-「第7回人口移動調査」データを用いて-.人口問題研究70(1):21-43.</p><p>山内昌和2016. 東京大都市圏に居住する夫婦の最終的な子ども数はなぜ少ないのか—第4回・第5回全国家庭動向調査を用いた人口学的検討—. 人口問題研究72(2):73-98.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390565134842736896
  • NII論文ID
    130007822057
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_194
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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