免疫担当T細胞からの口腔疾患の病態解明と治療法開発のアプローチ

DOI
  • 中村 誠司
    九州大学大学院歯学研究院口腔顎顔面病態学講座顎顔面腫瘍制御学分野

抄録

生体の免疫反応の中心的役割を担うT細胞は様々な口腔疾患の病態形成に関わっており,シェーグレン症候群や口腔扁平苔癬などにおいては発症ならびに病態形成を,口腔扁平上皮癌に対しては制御を担っている。私は,大学院と米国留学の頃は基礎免疫学,その後に口腔領域の疾患に焦点を当てた臨床免疫学へと研究を展開し,2002年には今回と同じ課題名で宿題報告を行った。今回の報告では,同様のアプローチではあるが,最新の研究手法を駆使してその後に積み重ねた研究成果をもとに,新たな治療法の確立に迫る研究の新展開をお示しする。<br>今回の報告の中心になるのは,新たに研究対象として加えたIgG4関連疾患に関する研究成果になる。IgG4関連疾患は本邦で見出された新たな疾患概念であるが,私は厚生労働省科研やAMEDのオールジャパン体制の研究班で診断基準の作成に関わるとともに,病態解析も進めてきた。その結果,Th2細胞,Treg細胞,CD4陽性CTL,IL-4産生Tfh細胞といった特異なT細胞サブセットが病態形成に関わり,異所性胚中心の形成を伴ってIgG4陽性形質細胞の分化・増殖,さらにはIgG4産生を誘導していることを見出した。さらに,Toll様受容体の1つであるTLR7を発現するM2マクロファージがIL-33などを産生してT細胞の活性化に関わっていることを見出し,ヒトTLR7を異常発現するトランスジェニック・マウスを用いて疾患モデルの作製を試みたところ,アゴニストで刺激することで不完全ながらも初期の病態が再現できた。この疾患モデルを用いれば,分子標的薬を用いた新たな治療戦略の開発が可能になることが期待できる。<br>一方,シェーグレン症候群や口腔扁平苔癬においても同様の手法で病態形成に関わるT細胞の解析を進め,前者に関しては多くのT細胞サブセットが病態形成に応じて関わるものの,初期の病態形成には主にTh17細胞が担っていることを,後者に関しては上皮が産生するthymic stromal lymphopoietinが骨髄系樹状細胞を刺激し,Th17細胞とTh2細胞を活性化して過角化を生じる可能性を示し,これらが新たな治療戦略の標的になり得ることを示した。<br>口腔扁平上皮癌に関しては,分子標的薬である抗PD-1抗体製剤が新規治療薬として注目されているが,私は抗腫瘍T細胞の制御にPD-1を介した経路が関わっていること,さらにPD-1のリガンドであるPD-L1は癌細胞以外にも腫瘍随伴性マクロファージが産生していることを示している。抗PD-1抗体製剤の有効性をさらに高めるためにも,腫瘍随伴性マクロファージの役割やPD-1/PD-L1経路のさらなる解析を行い,治療法の改善に貢献することを目指している。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390566775154907648
  • NII論文ID
    130007880435
  • DOI
    10.11277/stomatology.69.49
  • ISSN
    21850461
    00290297
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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