疾患レジストリーへの展開

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  • 岩田 欧介
    名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野

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タイトル別名
  • Towards the establishment of the national registry for child encephalopathy : a feedback from the experience of the Baby Cooling Registry of Japan
  • Baby Cooling Japan低体温療法全国登録事業の経験から

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抄録

<p>周生期の低酸素虚血に続く脳症は, 成熟新生児の死亡や生存者の神経学的合併症の主たる原因であったが, 2010年1月, 新生児低体温療法の効果を検証した3件の質の高い大規模臨床試験のプールデータ解析結果がBMJ誌に公表され, 低体温療法の有効性が最上位の臨床的エビデンスに支持されることになった. 当時, 臨床エビデンスの蓄積を待たずに実験的な低体温療法を臨床応用していた日本においても, エビデンスに基づいた低体温療法を提供する体制の整備が必要となり, 厚生労働省の研究班内に設置された小さな作業部会 (後のBaby Cooling Japan) が啓発活動を担うことになった. 国際ガイドラインの公開が2010年10月に迫る中, 低体温療法の実施状況調査, ワークショップ開催, エビデンスに基づいた実践テキストの出版, 公開討論とパブリックオピニオンの収集, エキスパートオピニオンの調整, 日本版の臨床推奨の日英2か国語での公表が短期間で集中的に進められた. 作業部会の結成から2年後に行われた全国サーベイランスでは, わが国における低体温療法の提供体制が全国レベルで整ったこと, そして, 世界で最もエビデンスに忠実な低体温療法が施行されていることが明らかになった. 2012年からは, 低体温療法実施施設の大半の参加を得て, 低体温療法全国症例登録が開始された. 現在までに1,000例を超える症例情報が蓄積され, 従来の100〜200症例程度の検討からは見えてこなかった重要な予後操作因子や, 冷却中の呼吸循環変量の基準値などは, 10本に迫る英文査読誌掲載論文を通じて世界の臨床現場にフィードバックされ, 高い国際評価を得ている. エビデンスに基づいた低体温療法の提供体制を整備するという当初の目標は達成されたが, 作業部会では, レジストリデータから見えてきた低体温療法適応症例の最適化に向けて, 前向き研究をも執り行っている. 2018年に終了した第1相臨床試験の結果に基づき, 現在第2相臨床試験が計画されている. Baby Cooling Japanの経験から, 小児脳症におけるレジストリー開設および国際臨床研究の推進に有用なフィードバックができれば幸いである.</p>

収録刊行物

  • 脳と発達

    脳と発達 52 (4), 243-245, 2020

    一般社団法人 日本小児神経学会

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