医療機器HAL®(Hybrid Assistive Limb®)を使ったサイバニクス治療と医薬品(核酸医薬など)との複合療法の夜明け

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抄録

「神経系は自己複製能力のない一生涯同じ神経細胞により構成される(Bizzozero, 1893)」、「神経細胞の軸索と樹状突起の成長と再生の泉は一旦、発達が終わると不可逆的に枯れてしまう(Ramon y Cajal, 1913)」と考えられてきた。このため、リハビリテーション治療では神経系の機能再生が無理でも、健常部分を強化するアプローチ、機能再建療法が検討されてきた。われわれの研究グループはそのようなリハビリテーション手技をロボットに行わせるのではなく、全く新しいイノベーションとして機器と人が電気的に力学的に一体となることで、iBF(interactive BioFeedback)によるシナプスネットワークの再構成が可能になるという仮説をつくり、その実証のためHAL®医療用下肢タイプの治験を行った。治験(NCY3001試験)では運動単位(運動ニューロンと筋線維からなる)が傷害される進行性の希少神経筋難病8疾患(脊髄性筋萎縮症を含む)に対して歩行機能が改善することが検証され、2016年に保険適用された。 人の遺伝情報は遺伝的多様性の根幹であり、一生涯変わることがない。ヒトの受精卵レベルで遺伝子を変える技術が可能であるにしても、予想できない将来のリスクが潜在する可能性があるため倫理的議論が絶えない。遺伝性難病(脊髄性筋萎縮症を含む)の治療薬は遺伝子改変ではなく、蛋白の発現調節ができるかどうかで研究されてきた。脊髄性筋萎縮症はSMN1遺伝子の多様性により、SMN蛋白が十分産生できないことで発症するが、ヌシネルセンという画期的なアンチセンス核酸医薬によりSMN2遺伝子からSMN蛋白を作りだす治療法が開発され、脊髄性筋萎縮症患者の画期的治療法となり2017年市販された。 われわれの研究グループは脊髄性筋萎縮症の治療に上記の二つの治療を組み合わせれば、相加的・相乗的な効果を目指した複合療法が可能であろうと考えている。さらに、その他の疾患群に対しても、発症し進行後も治療効果を最大化するために、複合治療モデルが適用可能と考えられる。 略歴 国立病院機構新潟病院 病院長、神経内科専門医、認知症専門医、臨床遺伝専門医。ロボットスーツHAL®の医師主導治験の治験責任医師・調整医師として臨床研究および脳・神経機能再生に関する研究を行っている。健康概念と臨床評価指標の組み替えを提言している。ヘルスデータサイエンス協会理事。新潟大学医学部卒(1983年)、Fogarty fellow, NIMH, NIH(USA) (1987〜89年)、 厚生労働省薬事・食品衛生審議会専門委員(非常勤) 現)独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)専門委員(2001年〜)、https://synodos.jp/intro/7675

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