共形場理論の<i>TT</i>-変形と重力双対

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タイトル別名
  • <i>TT</i>-Deformations of CFT and Gravity Duals
  • 共形場理論のTT-変形と重力双対
  • キョウケイジョウ リロン ノ TT-ヘンケイ ト ジュウリョク ソウツイ

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抄録

<p>共形場理論(Conformal Field Theory, CFT)は,スケール変換を拡張した共形変換に対する対称性(共形対称性)をもった場の量子論であり,系の臨界点近傍のダイナミクスを記述する理論として広く知られている.その有用さは物性理論のみならず,弦理論の数学的な基礎づけを与える理論としても不可欠であり,また最近ではゲージ理論と重力理論の双対性の研究においても重要な役割を果たしている.</p><p>一般の場の量子論の観点から見れば,CFTは非常に特殊な理論である.場の量子論全体の空間として抽象的な理論空間を考えると,CFTは共形不変性によって特徴づけられる点の集合をなす.この点たちはエネルギースケールを変えるくりこみ群変換によって生成される流れ(フロー)で結ばれており,CFTはその流れの固定点に対応する.この理論空間全体の構造を一般的に理解するために,CFTにスケール不変性を破る摂動項を加えることによって生じる理論の変化のフローを調べることは,重要な研究課題である.</p><p>この摂動項によって変形された理論は固定点(最初のCFT)から外れて,エネルギースケールを変えると別の理論にフローする.このとき,最初の固定点から外れていく摂動をrelevantな摂動といい,再び元の固定点に吸い込まれていく摂動をirrelevantな摂動とよぶ.relevantな摂動についてはよく理解されているが,irrelevantな摂動に関してはほとんど研究の進捗はない.</p><p>Irrelevantな摂動は,低エネルギー領域(Infrared, IR)から高エネルギー領域(Ultraviolet, UV)への理論のズレを意味し,くりこみ群の基礎をなす粗視化と逆の過程に対応する.よって,普遍的な性質が創発するどころか,逆に微細な構造が見えてくることから,irrelevantな摂動の制御が難しいのは明らかであろう.しかしながら,IRの理論からUVの理論の構造を理解することは,古典重力理論から量子重力理論への糸口が見つかる可能性があり,理論物理学における重要な研究課題の一つである.</p><p>2004年のAlexander Zamolodchikovの先駆的な仕事に端を発し,エネルギー・運動量テンソルTμνの行列式で定義される複合演算子(演算子TTの積を含み,TT-演算子とよばれる)を用いたirrelevantな摂動項による理論の変形(TT-変形とよばれる)の特殊な例が,近年,精力的に研究されてきた.2次元時空において,この複合演算子はTTが同一点で衝突したときの特異性をもたない.そして,CFT,あるいは可積分な場の量子論のようにエネルギースペクトラムが陽的に求まる理論に対しては,irrelevantな摂動であるにもかかわらず,その変形された理論におけるエネルギースペクトラムを計算できる.</p><p>また,2次元における質量ゼロの自由スカラー場理論のTT-変形は,弦の運動を記述する南部–後藤作用になり,変形パラメータが弦の張力を特徴づけるα′と同定される.この結果は古典論レベルではあるものの,IRの理論からUVの理論として弦理論を再現する道筋として大きなインパクトを与えた.その量子論的な性質は弦理論,および量子重力理論と密接に関連すると期待されるため,TT-変形を研究する強い動機になっている.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 76 (3), 130-139, 2021-03-05

    一般社団法人 日本物理学会

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