倉敷市真備町岡田地区の被災伝承の取組みと地理学の貢献

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タイトル別名
  • Geographical Efforts to hand down the experience of flood damage in the Okada area of Mabi-cho, Kurashiki City

抄録

<p>はじめに</p><p></p><p>平成30年7月豪雨災害により,岡山県倉敷市真備町では南北に流れる高梁川が増水し西から合流する小田川が排水不良や逆流をおこし,小田川と小田川支流の決壊・越流などにより大規模に浸水し52名が犠牲となった.このエリアは,事前に倉敷市から配布済のハザードマップでは災害発生時にはより安全な場所への「立ち退き避難」が必要な5m浸水のエリアであった.被災後,真備町の各地区では住民主導で再びこのような災害を繰り返さないための取組みがなされている.本報告では岡田地区における活動を紹介し,地理学が貢献すべき視点についての私見を述べる.</p><p></p><p>倉敷市真備地区の概要</p><p></p><p> 真備地区は南北に流れる高梁川とそれに合流する東西に流れる小田川の影響を受けた低地が広がり,古代より山陽道が通り栄えた土地で川辺,岡田,箭田が中心的な地区である.真備町史編纂委員会(1979)によると,江戸時代以降,主たる水害だけでも25回以上の記録があり,10年に一回程度の割合で大きな水害に遭遇してきた地域で,川辺や岡田は囲い堤を築いて集落を守っていた.しかし,明治26年の水害は高梁川右岸の堤防が決壊し,濁流が囲い堤を超え壊滅的な被害を受けた.これを契機に高梁川の改修工事が進み,昭和後期には排水施設も充実し災害リスクは低くなる.水害のリスクの低下により高度成長期や鉄道やバイパスの開通を契機に水田の住宅化が進んだ.川辺は山陽道と高梁川が交わる宿場町として栄え,現在も倉敷に近い利便性から商店や新しい住宅の多い地区,岡田地区は真備を治めた岡田藩の陣屋があり,藩政時代から先祖代々住む住人と新しい住人が入り乱れた地区,箭田は真備地区から水島工業地帯や児島に抜ける道があり,旧真備町の役場(現真備支所)がある中心地である.</p><p></p><p>水害後の教訓と地理学の貢献</p><p></p><p>被災後,再びこのような悲惨な災害に合わないことを目的に,岡田,箭田,川辺地区などはそれぞれ独自にNPO団体や研究機関などと協力し,活動を始めた.著者は岡田地区まちづくり推進協議会が教訓を残すために行った活動に参加させていただいた.この協議会では,西日本豪雨の教訓について,住民アンケートを行ったり,振り返り作業を行ったりすることで,後世に伝えることの重要性を認識し,今後の防災訓練や記憶の伝承を行うに資する「にげる」「いきる」「伝える」という冊子の作成を企画した.「いきる」は2020年1月に発行され,「いきる」は2021年春,「伝える」は2022年に発行予定である.この作成の過程で地理学が担うべき役割が明確になったと感じる.</p><p></p><p>「にげる」で重視されたのは,時系列と地図で住民の行動や感じた生の声を拾いながら,実際の被災がどこでどのように発生し,どのような不測の事態が発生したのかを検証することで,将来の今回と異なる状況下の災害を想定し対策を考える為の材料とする点である.「いきる」で重視されたのは,被災した当事者でしか想像がつかない避難先でのこと,様々な行政サービスなどの経験,転々とする避難先,街や商店の復興といった被災後の生活と復興への足取りを時系列で示すことで,希望を失わずに生き延びるための見通しを重視した点である.「伝える」で重視されるのは,被災したことによる教訓の伝承方法だけでなく,その土地の成り立ち,復興の際に思い描いた希望と将来への展望などを記すことで,この災害を新真備地区にとっての創世神話として記す点である.</p><p></p><p>必要と考えられた効果的な防災・減災対策とは、想定内の自然現象の中で「命を守る」という視点は不十分で,自然現象と社会の両者を理解することで災害を予測し想定内の状況を増やし、想定外の状況に適切に対応できる対応力を,自然環境による地域の宿命,宿命を技術によって変革してきた土地の歴史とその痕跡,災害を乗り越えて形成されてきた街の成り立ちと変遷などを広く認識することで身に着けることである.これらは自然地理学と人文地理学を合わせた地理学的な視点にほかならず,地理学的な広く俯瞰的な視野の重要性を強くアピールすることが求められる.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390569000755396480
  • NII論文ID
    130008006604
  • DOI
    10.14866/ajg.2021s.0_148
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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