「徒手理学療法のエビデンスをどう構築するか」

  • 浅田 啓嗣
    鈴鹿医療科学大学保健衛生学部リハビリテーション学科 理学療法専攻

Bibliographic Information

Other Title
  • ―臨床研究の課題と展望―

Description

<p> 現在の臨床研究の方向を決定づけたきっかけとなったのは,EBM宣言と呼ばれる1992年のGuyattらによる論文「Evidence-based medicine:A new approach to teaching the practice of medicine」である。この宣言の冒頭において,根拠に基づいた医学は,系統的ではない臨床経験,病態生理学的合理付けを臨床判断の十分な基本的根拠として重要視せず,臨床研究における根拠の検証を重要視すると述べられている。</p><p> 本邦における徒手的療法(manual therapy)の効果に関する臨床研究は非常に少ないことは言うに及ばず,国際的な系統的レビューにおいても,運動器疾患に対する徒手的療法は疼痛に著しい短期的効果を示すが,身体障害,機能,医療費,および生活の質に対する長期的効果は依然として疑問の余地があることを示唆している。現代の医療において我々のスキルは不要なのだろうか? 海外のような職業上の地位や待遇が得られない運動器徒手理学療法認定士という称号は意味を成さないものなのだろうか?</p><p> 今一度,徒手的療法と徒手理学療法(manipulative physical therapy)を整理して考える必要がある。徒手的療法は立位・歩行練習のような運動学習を伴わず,筋力増強運動や関節可動域増大運動などの運動療法の目的をもたない他動的な手技による治療と理解されている。多くの研究では患者の症状に関係なく,一定の手順に従った徒手的療法の効果が検証されてきた。しかしながら,理学療法士が行う徒手的療法は筋骨格系の状態を改善し,運動を円滑に行えるように支援するものであり,痛みのない機能的運動を促進するための介入である。運動療法との組み合わせで,より良い効果を生み出す可能性を有し,その総合的な治療は「徒手理学療法」と呼ばれるようになっている。つまり,筋骨格系障害の治療は徒手的療法から始まることが多いが,機能の変化や改善に合わせて,運動システムのあらゆる側面に対処していく必要があり,徒手的療法を含んだ複合的な介入の効果とその対象を明確化していくことが,今後の課題である。</p><p> 最近では,個々の患者の臨床症状に基づいて徒手的療法の種類と量を選択する実用的なアプローチによる研究が行われている。これは多くの交絡因子を生み出し,研究の内的妥当性を低下させるかもしれない。その一方で外的妥当性および一般化可能性を高めることに繋がるだろう。徒手理学療法の効果を証明していくために,学術機関と臨床現場の連携とを強め実用的な臨床データの蓄積・分析を進めていく必要がある。</p><p> 日本理学療法士学会徒手理学療法部門では,運動器疼痛疾患を対象とした徒手理学療法の効果に関する研究プロジェクトを2015年より立ち上げた。2016年より多くの施設の協力の下で予備的調査を進め,これまでの理学療法士学会学術大会で報告してきた。臨床研究に関する問題点を踏まえ,2018年度からは変形性膝関節症・脊柱菅狭窄症に対してClinical Prediction Rule作成を目的とした多施設共同研究を開始している。本シンポジウムではその研究概要について紹介しながら,臨床研究の課題と展望について議論したい。</p>

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390569015606738432
  • NII Article ID
    130008010285
  • DOI
    10.14900/cjpt.47s1.a-15
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

Report a problem

Back to top