成育医療の黎明

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抄録

<p> 成育医療の概念</p><p> わが国の急速な少子高齢化の進行は重大な社会問題として,数多の学術集会やマスメディアがこれを取り上げ,警鐘を鳴らしている.敗戦直後の昭和20年代前半に4.32であった合計特殊出生率(一人の女性が15歳から49歳までに産む子どもの平均数)は平成17年には1.26まで低下し,その後の行政・施策にも関わらず現在も1.4台までしか回復していない.この結果,社会の年齢別の人口を表した人口ピラミッドは前回国勢調査の集計では既に緩やかな下向きに逆転した形になっている.こうした現状に対して,厚生労働省は貴重な社会資源である小児への医療体制を抜本的に強化する小児医療の新たな枠組みとして世界に先駆けて「成育医療」の概念を打ち出し,2002年3月には新たなナショナルセンターである国立成育医療センターを開設した.「成育医療」とは出生前より小児の成長,成人化,そして次世代の出生まで,ライフサイクルをシームレスにカバーする包括的かつ総合的なチーム医療である.疾患の発症した一時点における対応のみならず,小児の成長過程をフォローし,疾患をもった小児はその出生前評価から出生,さらに生後の疾患治療まで,担当診療科が合同チームとして連携して治療を行い,フォローしてゆくことになる.従来,出生後搬送される新生児を中心に対応していたわれわれ小児外科医も,出生前診断時から継続的に治療に関与してゆくようになった.加えて疾患を抱えたまま成長してゆく小児に対しては,成人化後の社会生活や次世代の再生産までを視野に入れたフォローアップや成人期医療が成育医療の範疇に入る.</p><p> 開院した国立成育医療センターに対してはこの成育医療の社会実装のミッションが課されたが,成育医療の黎明期においては誰もが未経験で,この新たな医療の施行には色々な試行錯誤があり,一方で思わぬ新知見の集積もあった.本学会の立場から成育医療の周産期的な側面に焦点を絞って,小児外科的な疾患に対する出生前からの介入や評価について,自験例を中心にこれらの経験を共有したい.</p>

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