ついに捉えた宇宙ガンマ線バーストからのTeVガンマ線放射

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タイトル別名
  • Discovery of Long-Waited TeV Gamma-Ray Emissions from a Gamma-Ray Burst
  • ツイニ トラエタ ウチュウ ガンマセン バースト カラ ノ TeV ガンマセン ホウシャ

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抄録

<p>宇宙ガンマ線バースト(以下GRB)は1960年代に発見された突発的な天体現象であり,10の3–6乗電子ボルト(eV)のガンマ線放出が数十秒という短時間だけ観測される.あらゆる方向で突然起こる予測不能な事象のため,その起源は長く大きな謎であった.1990年代に多波長観測により,減衰するX線放射と,GRBを含む銀河が可視光で発見され,GRBは宇宙論的距離で起きる宇宙で最も激しいエネルギー放出現象であることが明らかになった.その起源として,大質量星の死(超新星爆発)と中性子星連星の合体が提案された.2000年代に入りGRBに特化した衛星が活躍し,GRBの一部が超新星爆発を起源とすると確定したが,もう一方については2017年の重力波同時検出まで待たなければならなかった.この間,ガンマ線を作る粒子加速現場(ジェット)の機構などへの興味はより深まっていき,特にFermi衛星により放射エネルギーが100 GeV近くにまで達することがわかったが,その機構は謎に包まれていた.</p><p>このエネルギーになると,解像型大気チェレンコフ望遠鏡による地上からの空気シャワー観測が必要となる.本研究で用いられたMAGIC望遠鏡は口径17 mの望遠鏡2台によって構成され,約50 GeVから100 TeVのガンマ線に感度をもち,その有効検出面積は人工衛星に比べて4桁近く大きい.一方で,観測は晴れた夜間に限られ,望遠鏡の視野も数度程度と狭いため,衛星からの速報を受けとって自動的に観測可否を判断し,即座に望遠鏡をGRBに向けて観測を開始するシステムが構築されていた.15年にわたる観測で約100のGRBを観測したが,高い有意度での検出には至っていなかった.</p><p>2019年1月14日20時57分03秒,本研究の対象となるGRB 190114Cが発生し,Swift衛星BAT検出器からの速報が22秒後に全世界に配信された.MAGIC望遠鏡はその28秒後(発生の50秒後)から観測を開始し,その直後から,いかなる天体からも観測されたことのない高い流量の高エネルギーガンマ線放射を検出した.さらに詳細データ解析の結果,放射ガンマ線のエネルギーはTeVにも達することが明らかになり,GRBからの放射エネルギー最高記録を1桁以上も一気に更新することになった.この結果は,史上初めてGRBからのTeVガンマ線を地上ガンマ線望遠鏡によって検出しただけでなく,X線やMeVガンマ線放射を作り出す高エネルギー電子のシンクロトロン放射では説明できない,別の放射成分が存在する確実な証拠となった.このTeVガンマ線を作り出す別の放射機構は,長らく予想されていた逆コンプトン散乱で説明でき,TeVにも達する高エネルギー放射が多くのGRBに期待される一般的性質である可能性を示唆している.</p><p>技術的に困難と思われていた地上ガンマ線望遠鏡観測の成功は,今後の本領域の研究を加速する.特に初期運用が始まった次世代チェレンコフ望遠鏡CTAによる研究の進展を期待させる大きな成果である.本検出によって観測戦略を練り直すことができ,考えられていたより大きい検出頻度を得られる可能性が極めて高い.</p><p>執筆者の野田は,電話対応シフトとして本発見の報を最初に受けただけでなく,MAGIC共同研究者内でのデータ解析グループを率いた.高橋は観測地現地でのデータ取得に貢献し,深見は多波長データ解析に貢献した.科学成果のみでなく現場の興奮もお伝えできればと思う.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 76 (5), 278-283, 2021-05-05

    一般社団法人 日本物理学会

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