シクロデキストリンを用いた結晶の多形転移ならびに晶癖の制御

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抄録

固体物質は,分子が3次元的に規則的に並んだ結晶と分子配列に一定の規則性を持たない非晶質に大別される.結晶多形は,同一化合物でありながら,結晶内の分子配列あるいは分子のコンフォメーションが異なるものであり,固体特有の現象である.したがって,溶解してしまうと多形現象は消失する.例えば,ダイアモンド,グラファイト,フラーレンは炭素の同素体で多形の関係にある.また,カカオバターには6種の結晶多形が存在し,口中で滑らかに溶融するV型(融点33℃)はチョコレートの原料として,一方,体温付近で溶融するVI型(融点36℃)は坐剤基剤に最適である.結晶の多形現象は,固体物質において一般的に観測される現象であり,医薬品は構造の複雑さから約85%が結晶多形を有するといわれている.多形の中で融点が高く,溶解度が最も低いものが安定形,それよりも熱力学的に不安定なものは準安定形と呼ばれる.準安定形や非晶質体は安定形に比べて,溶解度や溶解速度が大きいため,経口投与時の薬物のバイオアベイラビリティを改善する手段として有効である.しかしながら,準安定形の結晶化が困難なことや保存中に安定形へ転移することなどから,実際製剤の原薬としての使用は限られており,選択的な多形の調製技術あるいは分子レベルで多形転移を制御する技術の確立が望まれている.<br>一方,同一多形(固体内の分子配列やコンフォメーションが同じ)であっても,結晶の外観(針状結晶,板状結晶など)が異なる現象を晶癖(crystal habit)が異なるという.晶癖が異なると,溶解速度をはじめ,流動性,ぬれ性,付着性,打錠性などの物理化学的性質が変化することが知られている.そのため,日本薬局方には物理化学的試験法の粉体粒度測定法として,光学顕微鏡法(第1法),ふるい分け法(第2法),粉体の比表面積測定法ならびに熱分析,粉末X線回折などが収載され,原薬の固体物性,結晶形,結晶のサイズ,晶癖などの厳密な評価ならびに制御が求められている.

収録刊行物

  • ファルマシア

    ファルマシア 57 (6), 490-494, 2021

    公益社団法人 日本薬学会

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