中枢性希少難病における恒常性ミクログリアの破綻と細胞移植療法の可能性

  • 池内 健
    新潟大学脳研究所生命科学リソース研究センター
  • Yusran Ady Fitrah
    新潟大学脳研究所生命科学リソース研究センター
  • 朱 斌
    新潟大学脳研究所生命科学リソース研究センター

書誌事項

タイトル別名
  • Loss of homeostatic microglia in rare neurological disorders: implications for cell transplantation
  • チュウスウセイ キショウ ナンビョウ ニ オケル コウジョウセイ ミクログリア ノ ハタン ト サイボウ イショク リョウホウ ノ カノウセイ

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抄録

<p>ミクログリアはyolk sacを発生起源とする脳常在マクロファージである.脳内環境の恒常性を維持するための多彩な機能をミクログリアは担っており,その機能破綻は種々の神経疾患の病態に関与する.本稿ではミクログリアの本質的な機能破綻を原因とする希少性神経難病を取り上げ,恒常性ミクログリアに着目した病態に基づいた新たな治療アプローチを議論する.ミクログリアの生存維持に重要な働きを担うCSF1受容体をコードするCSF1Rを原因遺伝子とするミクログリア病としてASLP(adult-onset leukoencephalopathy with axonal spheroids and pigmented glia)が知られている.ALSPは成人期に発症する大脳白質変性症であり,Iba1,P2RY12,TREM119などを発現する恒常性ミクログリアが著しく減少する.CSF1R両アレル性変異は,ALSPよりも重篤かつ早発化した表現型を呈し,ミクログリアが脳実質から消失する.CSF1Rノックアウト(Csf1r-/-)マウスやラットにおいてもミクログリアが消失することから,CSF1R欠失によりミクログリアが消失する現象は普遍的であると思われる.恒常性ミクログリアの機能破綻という病態機序を基盤に,細胞移植により正常なミクログリアを補充する治療法が試みられている.Csf1r-/-マウスに野生型マウス由来の骨髄細胞を移植すると,レシピエント脳にドナー由来のミクログリア様細胞が定着する.ミクログリアが脳内で病的に枯渇している状態において,ドナー由来のミクログリア様細胞が脳に定着する成立する機序として「ミクログリア・ニッチ」という考え方が提唱されている.ALSP患者4例に対して造血幹細胞移植が試みられており,病像の進行が停止するなどの効果が報告されている.ドナー由来の骨髄系単球細胞がALSP患者の脳内に到達し,破綻したミクログリア機能を回復させているのかもしれない.少数例の経験のみでALSPに対する造血幹細胞移植の有効性を結論づけることはできないが,破綻したミクログリアを正常なミクログリアに置換する細胞療法のコンセプトは検討に値するものと思われる.</p>

収録刊行物

  • 日本薬理学雑誌

    日本薬理学雑誌 156 (4), 225-229, 2021

    公益社団法人 日本薬理学会

参考文献 (18)*注記

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