サファイアの加熱処理 -再考-

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  • Review of heat treatment of sapphire

抄録

<p>サファイアは広く加熱が行われている宝石である。現在の宝石市場において、古くから知られている伝統的な単純(低温)加熱やギウダの加熱に加えて、外部からの元素の拡散加熱や圧力を用いた加熱が混在して流通している。このような加熱技術が導入される度に国際的な議論を呼び、新たなルーリングが制定されて来た。本稿ではサファイアの加熱処理を振り返り、技術の発展と情報開示の歴史をレビューする。</p><p>◆単純(低温)加熱</p><p>コランダムの加熱の歴史は古く、スリランカでは 2000年前にすでに加熱が行われていたと言われており、 11世紀には文献に記述が見られる。近年においては 1916年にオーストラリア産の暗青色のサファイアを明るくするために加熱が試されたと記述されている。この暗味を除去する加熱はその後も広く利用され、今日まで継続している。伝統的な加熱にはblowpipe(吹管)が用いられてきたが、これでは 800-1200℃までの温度しか得られない。</p><p>◆ギウダの加熱</p><p>サファイアの加熱において歴史的にもっとも重要なのは 1970年代の前半にタイのバンコクで始まったギウダの加熱である。それまで宝石にならなかったスリランカ産の淡色のサファイア(ギウダ)をシルク inc.(ルチル)が溶けるまでの高温(1200‐1350℃以上)で加熱し、濃色のブルー・サファイアを得ることができた。高温を得るためにディーゼル炉が開発され、その後、ガス炉や電気炉も次々と開発された。サファイアの加熱が国際的な議論を呼び、1980年代の中頃には CIBJOや ICAでも加熱されたサファイアは「処理石」ではなく「天然」として容認されることになった。日本でも国際的な潮流に従い、当時は加熱石も「天然ブルー・サファイア」として流通させていたが、1994年 6月 1日より、加熱の情報開示を開始した。</p><p>◆表面拡散</p><p>1974‐75年にユニオンカーバイド社により特許が取得された手法で、着色に関与する元素を人為的に外部から拡散させる加熱処理である。日本国内でも 1981年頃から見られるようになった。淡色~無色の天然サファイアが処理されていたが、ベルヌイ合成にも適用されている。 2015年にはこのベルヌイ合成に表面拡散された大粒の石がタイのマーケットに出現し、日本国内にも持込まれた。表面拡散処理は比較的容易に識別できるが、合成起源の鑑別は困難である。</p><p>◆Be拡散加熱</p><p>2001年の後半頃より、 Beが拡散された新たな加熱処理が出現した。 Beは軽元素であり、従来の宝石鑑別手法では検出不可能で、より高度な分析機器の導入やルーリングの改定が必要となった。</p><p>◆高温低圧(HT+P)加熱</p><p>圧力を用いた熱処理が2009年に出現し、 2013年頃から話題になっている。当初は HPHT処理と言われていたが、圧力が 1kbar以下であることから、最近では HT+P処理と呼ばれている。 2018年に AGTAが圧力を用いた加熱であることを開示するようにとの指針を出したが、国際的な鑑別機関では通常の熱処理の範疇として扱われている。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390570465069082624
  • NII論文ID
    130008072421
  • DOI
    10.14915/gsj.43.0_58
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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