梵文法華経における梵語化検証の可能性――『ケルン・南條本』の異読を中心に――

  • 西 康友
    Associate Director, Chuo Academic Research Institute of Rissho Kosei-kai, Doctor of Buddhist Studies

書誌事項

タイトル別名
  • The Possibility of Verifying Sanskritization in the <i>Saddharmapuṇḍarīka</i>: A Study of Kern’s Variant Readings
  • The Possibility of Verifying Sanskritization in the Saddharmapundarika : A Study of Kern's Variant Readings

この論文をさがす

抄録

<p>梵文法華経(SP)は初期大乗仏教経典の古層とされ,この漢訳『妙法蓮華経』は東アジアにおいて多くの経典・思想・文化の形成・発展に大きな影響を与えてきた重要経典の一つである.この原典とされるSPは,仏教混淆梵語(BHS)の代表経典の一つであり,本文には中期インド・アーリヤ(MIA)語的表現が多く見られる.すべての現存SP写本は,中央アジア(CA)伝本とギルギット・ネパール(G-N)伝本の2つに大別されることが知られている.</p><p>初期のSPはMIAで編纂され,時代とともに伝承されるにしたがって梵語化された(Kern 1912, Edgerton 1953,辻1970の一部,辛嶋1992–2006)と考えられているが,反論(Brough 1954など)も多く,統一的な見解に至っていないのが現状である.この仮説を検証した結果,以前の発表者の研究で,この仮説を支持する3例証を見出した:(1)異読(写本ごとに異なる読み)2語BHS krīḍāpanaka- / Skt. krīḍanaka-; (2)異読3語BHS sāntika- / MIA santika-=Pāli / Skt. antika-; (3)異読3語BHS acintika- / MIA acintiya- =Pāli / Skt. acintya-.(1)–(3)は現存SP写本の出現箇所分布について特徴的な偏りが存在する:①MIAがCA偈文・散文とG-N偈文に多く出現し,Skt.はほぼ出現しない;②Skt.がG-N散文に多く出現するが,CA偈文に出現しない.</p><p>本稿は上記の研究を推進させることにより,SP梵語化の仮説について,以下の異読を具体的に精査し,この仮説の論証の可能性を見出すことを目的とする:SPの一般的な校訂本『ケルン・南條本』序文にあるCA伝本カシュガル本OとN写本の対応箇所語彙の90異読における分析を行う.なお,本稿ではSP2伝本のうち書写年代が顕著に異なる主要な19 SP写本とSP初の写本混淆校訂本『ケルン・南條本』(SP研究における基準テキスト)を取り扱う.</p><p>以上の一連の研究を拡張し,展開することによって,法華経成立・伝承過程の解明に向けての新しい視座を獲得できる可能性を提示する.</p>

収録刊行物

参考文献 (2)*注記

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ