関東平野における屋敷林・防風林の変化とその要因

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タイトル別名
  • The transition and its cause of woodlands and windbreaks around farmyards in the Kanto Plain

抄録

<p>1. 屋敷林研究の動向</p><p>日本の農村部における屋敷林は防風,防暑,防寒,防砂などの役割を果たし,農家の日常生活に必要な資材の供給源であった(吉野1961)。これらの用途のうち,地理学の屋敷林研究は,防風に着目して行われてきた。矢沢(1936)は,屋敷林を防風林とみなし,関東平野の多くの民家において屋敷林が冬の卓越風の風上側に仕立てられていることを明らかにした。矢沢(1936)に続いて日本各地の散村にて地域の卓越風向を推定する研究が蓄積されてきた。同様に集村における屋敷林も風を主とする気候を反映した景観として古くから研究され,三浦(2006)によって全国各地の屋敷林の形態が類型化された。</p><p>空中写真判読によると継続して屋敷林が減少している。そのため屋敷林の変化を分析する必要性がある。そこで本研究では,変貌しつつある農村景観の一つとして屋敷林を取り上げ,その現状や維持管理および住民の認識について分析し,屋敷林の取り巻く環境変化の一端を明らかにすることを目的とする。</p><p></p><p>2. 調査方法</p><p>関東平野北部,埼玉県と群馬県の県境付近において,現地調査を行った。この地域は強い冬型の気圧配置の際,北西から「からっ風」とよばれる風が吹く。周囲を畑に囲まれているため,風よけとなる障壁がなく集落に強風が吹き付ける。この地域のうち,集村で,2021年現在も形態が大きく変化していない5集落においてアンケート調査を行った。5集落のなかから協力者が見つかった2集落において追加で聞き取り調査を行った。</p><p></p><p>3.調査結果</p><p>地元の人々は集落内の樹林帯のうち,タケを中心に構成された屋敷林のことを「タケヤブ」,カシで仕立てられた高い生垣のことを「カシグネ」と呼んでいた。集落の外部にあるクヌギ林を「ヤマ」と呼ぶ住民はいたが,聞き取り調査の限りでは,ケヤキなどで構成された屋敷林に対して特別な名称はなかった。</p><p>タケヤブは主に集落の北縁に配置されている。集落を冬の季節風から護る目的や,材を農具や蚕具などに加工することを目的として仕立てられたとされている。また,かつて業者が買い取りに来ていたという証言も得られた。しかし2021年現在は,材としての価値が失われ,風よけ以外の用途はないと思われる。生育が旺盛なタケを伐採して利用する機会が失われたため,始末に負えなくなり伐根をする世帯が多くいた。また,敷地の所有者と,敷地の背後にあるタケヤブの所有者が異なる場合があり,他家のタケヤブの拡大に悩まされている世帯もいた。</p><p>カシグネは防火,目隠し,境界として利用するため,材を農具に加工するために集落内の屋敷の主に北・西側に仕立てられたとされている。タケと同様に業者が買い取りに来ていたという集落もあった。観察で多くみられた樹種はシラカシである。現地調査では,材を利用している世帯はみられず,風よけ,目隠し,境界として利用していると答えた世帯が多かった。敷地内の建物の構成変化から,強風に悩まされ,新たに植えたと答えた世帯もいた。一方で,高所の手入れが困難であることから,剪定によって樹高を低くした世帯や,伐採した世帯が多くいた。</p><p></p><p>文献</p><p>三浦修 2006. 山形県庄内平野の屋敷林と冬囲い景観. 東北福祉大学研究紀要 30:197-213.</p><p>矢沢大二 1936. 東京近郊に於ける防風林に関する研究(1),(2). 地理学評論 12:47-66, 248-268.</p><p>吉野正敏 1961. 『小気候』 地人書館.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390571007535833984
  • NII論文ID
    130008092972
  • DOI
    10.14866/ajg.2021a.0_106
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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