再生医療とロボティックバイオロジー

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タイトル別名
  • Regenerative medicine and robotic biology

抄録

<p>古くから眼科領域は新しい治療法が最初に成功する領域であったが、ES細胞、iPS細胞の移植も網膜から開始されている。ヒトiPS細胞が開発された2007年から5年で自家移植の臨床研究の申請をし、2014年9月に初めての自家iPS細胞由来網膜色素上皮(iPSC-RPE)移植、その後、HLA適合同種iPSC-RPE細胞移植、その後視細胞移植として網膜オルガノイドから作った視細胞を含む網膜シート移植を行い、安全性を確認してきた。2021年1月からは同種iPSC-RPEの移植をphase2にあたる効果確認を目的とした臨床研究として開始し、iPS細胞の臨床試験は次のステージへと移った。</p><p>現在の臨床研究ではこれまでの対象疾患であった加齢黄斑変性のみではなく、RPEで治療可能と考えられるRPEの障害あるいは萎縮で引き起こされる疾患全てを含む網膜色素上皮不全症という概念に適応を広げている。病名は昔の眼科的所見からつけられているが、時として機序が異なる疾患群も含まれている。例えば、網膜色素変性という疾患は視細胞の変性する疾患の総称であり、視細胞の遺伝子変異によって引き起こされることが多いが、中にはRPEの遺伝子変異が原因で2次的に視細胞が変性する症例も含まれる。このように同じ病名であっても移植すべき細胞が異なる場合もある。また、逆に病名が異なっても原因がRPEの萎縮である疾患は多数存在する。これまでの病名から治療を考えるのでなく、細胞治療の観点から病名の概念を再編成することも必要となる。</p><p>また、最初の自家移植を行う前から我々は免疫反応に注目していた。なぜなら霊長類ES細胞からRPEができて治療に使えることを2004年に動物実験で報告しており、治療を真剣に考えていたからである。しかし、主な対象疾患は高齢者の疾患である加齢黄斑変性であり、免疫抑制剤の全身投与は避けたい。iPS細胞の出現によって自家移植でその問題を避けることができ、次の臨床試験ではHLAを適合させたiPS-RPE移植で他人の細胞でもHLAの影響を排除すれば拒絶反応を免疫抑制剤なしにコントロールできることを示した。さらに現在はHLAを部分的にノックアウト(K O)したESやiPS細胞を使うことで誰にでも拒絶反応を抑えることができるというデータも出てきている。</p><p>他の臓器であれば、局所のわずかな炎症でその機能が大きく影響されることはないかもしれない。しかし、網膜の場合はごく僅かな部分の炎症でも極度に視力が下がったり視野が欠損したりするので炎症は極力抑えねばならない。その意味ではHLAの大部分を欠損させるとしばしば起こるウイルス感染に細胞が対処できるなくなる。網膜にとって良いHLA-KOとはどのようなKOかということも考える必要がある。また、同様にRPEシート作りの際の基材に関しても炎症を起こさない生体材料を使用する必要がある。このように臓器によって炎症や拒絶反応の許容範囲も異なる。</p><p>炎症や拒絶反応という点では自家移植はやはり最高の治療で捨てがたい。選択肢としてあるべきと考える。しかし、個々人のiPS細胞はそれぞれ微妙に異なり、培養法も調整する必要があるため、誰からでも毎回良いiPS細胞やそこから網膜細胞を作ることは難しい。自家移植のためには巧みの目と技が必要なのである。我々の研究室でもなかなかできる人は少なく教育も難しい。そこで、巧みの技をA Iロボットに移すことにした。双腕のヒューマノイドロボット「まほろ」は産総研の夏目先生が開発し、理研の高橋恒一先生とバイオロジーの実験を全てロボットにさせる「ロボティックバイオロジー」の研究が数年前からスタートしている。遺伝子実験、蛋白実験とクリアして、少し難しい細胞培養実験に挑戦するところで我々の研究室が参画しロボット細胞培養チームを作った。ロボットは1回目から普通の部屋内のブースでも一切コンタミネーションを起こすことなく細胞培養ができ、iPS細胞からRPE細胞を作ることに成功した。その後、2000種類以上ある分化誘導条件の中からAIによって検討する条件を自ら48種類(48well) 選択させ分化誘導を数回繰り返すことによって、人間が選択したよりも最適な条件を導き出すことができた。全ての条件は1wellで行うことができたが、これも手技が安定していることから可能となることである。バイオロジー実験の不確実さを、手技やうっかりミスに求める必要がなくなると別のところに観点が移るし、バイオロジーの再現性や不正など大きな無駄を省ける。また再生医療の製造ではなく非臨床試験に導入することによってもコストを下げることができるのではないかと考える。新しいバイオロジーの夜明けが期待できる。</p>

収録刊行物

  • 生体医工学

    生体医工学 Annual59 (Abstract), 121-121, 2021

    公益社団法人 日本生体医工学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390571240017827072
  • NII論文ID
    130008105058
  • DOI
    10.11239/jsmbe.annual59.121
  • ISSN
    18814379
    1347443X
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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