文化、アイデンティティ、承認の政治 : 多文化主義から複数性の民主主義へ

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タイトル別名
  • Culture, Identity, and the Politics of Recognition : From Multiculturalism towards Plural Democracy
  • ブンカ アイデンティティ ショウニン ノ セイジ タブンンカ シュギ カラ フクスウセイ ノ ミンシュ シュギエ
  • ブンカ アイデンティティ ショウニン ノ セイジ タ ブンカ シュギ カラ フ

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抄録

日本の多文化主義研究が抱えこんでいる問題の一つは、文化的アイデンティティを一義的に捉え、個人の複合的アイデンティティを見失っている点にある。本稿では、文化を象徴と意味の連合というモジュールをコンポーネントとする構成体、個人の世界解釈のための知識体系と捉える。バーガーのアイデンティティ論を参照し、アイデンティティが文化集団との対話的(弁証法的)関係において成立することを確認するとき、我々は文化的マイノリティはしばしばアイデンティティ喪失というアノミーが課せられた状態を強要されていることに気づく。この場合、自らのアイデンティティや生活スタイルが承認されないために、個人は意味ある他者との対話的関係を築くことができず、自己の内面の意味秩序が否定された状態で別の意味秩序を押しつけられている。そのような「課せられたアノミー」を不正だと考える「真正さの倫理」を受け入れれば、テイラーの言う「承認の政治」がいかに重要であるかが理解されるであろう。ただし、個人の複合的アイデンティティを見失い、文化的アイデンティティを本質主義的に一元化してしまうと、承認の政治は破綻する。承認の政治は民主主義として実現するしかないのであるが、その民主主義は文化とアイデンティティの複数性を前提とする民主主義でなければならない。その視座から多文化主義を捉えなおすことが、多文化主義の社会理論が現在取り組むべき最重要の課題であろう。

収録刊行物

  • 年報人間科学

    年報人間科学 18 183-196, 1997

    大阪大学人間科学部社会学・人間学・人類学研究室

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