人間の世界体験と人間のアイデンティティ : 大地/自然と文化/風景と音風景

書誌事項

タイトル別名
  • Human World-Experience and Human Identity : Earth / Nature and Culture / Landscape and Soundscape
  • ニンゲン ノ セカイ タイケン ト ニンゲン ノ アイデンティティ ダイチ シゼン ト ブンカ フウケイ ト オトフウケイ

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抄録

ハイデッガーは、人間を世界-内-存在と呼んだが、一歩ふみこんでいうならば、人間は、世界に巻きこまれており、世界と結ばれているのである。世界は、根源的には自然そのもの、人間は、自然のまっただなかに、さまざまなスタイルと方法で人間のトポス(場所、居場所、家、部屋、坐席、さまざまな集落などを意味する)や道を築いてきたのである。自然と文化は、一見したところ対立しているようにも思われるが、自然と文化は、実際には、まことに微妙な状態で混じり合ったり、重なり合ったり、緊密に結ばれたりしているのである。文化とは人間の生活と生存の方法であり、生活と生存の諸様式、スタイルなのである。社会と文化と歴史は、相互に結ばれているといえるだろう。人間がそこで生きている世界は、自然を根底とした社会的で文化的な歴史的世界であり、こうした世界は、そこで多元的現実、人間的現実が体験される時間的空間的世界なのである。人間は、世界を体験しつづけながら、意味のなかで、意味世界で人生の日々を旅しているのである。私たちの誰もが、人びとのなかで、人びとのかたわらで、道具や作品やさまざまな客体や対象とともに、また、風景のなかで、さまざまな風景を体験しながら、世界を構築しつづけているのである。そのような状態で現実の構成と人間のアイデンティティの形成と構築がおこなわれているのである。人間にとっては、人間的体験、社会的体験は、いかなる時においても、いずこにおいても重要だが、風景体験がなみなみならぬ世界体験であることは、いうまでもないことだろう。人間の生活史に深く根ざしている原風景がある。人間のアイデンティティ(存在証明、自己同一性)は、人間の意味世界におけるさまざまな世界体験によってかたちづくられているのである。こうしたアイデンティティは、トポスによっても、道によっても、さまざまな人びととの人間関係によっても、風景によっても、環境世界や生活世界によっても築き上げられてきたのである。人間の身体と五感によって、人間は、世界に住みついているが、フランス語、サンスsensに注目したいと思う。サンス-感覚・意味/方向-サンスと人間の行動、行爲、人間のプラクシス(行爲・実践)とポイエシス(制作・創造)は、密接につながり合っているのである。音環境があり、音風景がある。耳の記憶がある。客観的時間、制度としての社会の時間があるが、人間のアイデンティティにおいて、また、人間の条件としてきわめて重要なものは、人間的時間、内的時間、意味づけられた時間なのである。記憶、思い出、回想、郷愁、旅愁-たえまなしに生成のプロセスにある意味と意味世界において、意味のなかで、人間は身心を支えつづけているのであり、私たちの誰もが、人生を意味づけることに、方向づけることにたずさわりつづけているのである。感性こそ人間のアイデンティティと人間の条件において重要だと思う。理性が先行しているのではなく感性こそが、人間の人間性と個性において注目されるのである。人間にはどうしてもさまざまな鏡が必要だ。鏡を磨きつづけないわけにはいかない。自然も、文化も、他者も、作品も、人間にとっては、見るべき鏡といえるだろう。耳を傾けながら、感性を磨きつづけながら、さまざまな鏡と向き合い、自己自身と向き合い、できるだけ深く広々と世界を体験したいものだ。世界は、人間の母胎であり、故郷なのである。人間とは、究極的には感性であり、意味である。人間は、身体的人格的生成/存在(生成的存在)なのである。人生の旅びと、人間と人生の旅路、人生行路ほど注目に値する世界体験のドラマとエピソード、スペクタクルはないだろう。耳からスタートする世界と世界地平にも耳を傾けつづけたいと思う。人間の五感のそれぞれが、人間にとっては命綱なのである。感覚にも、感性にも、終始、意味が浮かび漂っている。方向は、まさに意味であり、人間は、たえまなしに方向を確かめつづけているのである。トポスにおいても、道においても、方向のチェックが必要だ。人間にとって大地と風景ほどすばらしいテキスト、驚くべき鏡はないだろう。人間は、つねに支えとよりどころとなるものを必要としている人生の旅びとなのである。

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identifier:KJ00004798387

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