良性疾患もしくは良悪性境界病変に対する腹腔鏡下脾および脾動静脈温存膵体尾部切除術

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タイトル別名
  • Laparoscopic Distal Pancreatectomy Preserving the Spleen and Splenic Vessels for Benign and Low-Grade Malignant Pancreatic Neoplasm

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説明

膵体尾部切除術は術野が体腔深く,視野がとりづらい部位にあるが,再建が不要であることから,鏡視下手術の利点を十分に享受しうる術式と考えられる.腹腔鏡下膵体尾部切除術特に脾および脾動静脈を温存する術式は平成24年度から保険収載され膵体尾部の良性・低悪性度腫療に対する第一選択の術式として位置づけられてくると言っても過言ではないであろう.良性・低悪性度腫療に対しても従来は通常型膵癌と同様に脾切除を伴う膵体尾部切除を行うのが一般的であった.Warshaw が最初に短胃動静脈を温存し稗動静脈を切離する方法を報告しさらにKimura が脾動静脈を温存する方法を報告した.脾臓温存の意義は脾摘によってもたらされる敗血症,血小板上昇などの血液学的異常を防御できることである.また,癌に対する腫瘍免疫学的な側面からも脾温存は重要である.我々は良性および低悪性度膵腫瘍に対して最も低侵襲と考えられる,脾および脾動静脈を温存する膵体尾部切除術を腹腔鏡下手術の適応としている.脾および脾動静脈温存膵体尾部切除において問題となる点は,先ず特に重要な膵実質より合流する細かな静脈を処理して確実に脾静脈を温存する為の器具の選択と使用方法.そして,現在の所完全な解決方法は明らかとなっていないが,完全に剥離された脾動静脈が膵切断端に露出する手術方法であることから,重大な合併症となり得る膵液瘻を最大限予防し得る膵切断方法である.6症例(女性4名,男性2名)に対して脾および脾動静脈温存膵体尾部切除術を行った.全例で腹腔鏡下に完遂出来,手術時間は平均290.7分(211-377分),平均出血量は43.5g(0-142g),術後平均在院日数は11.8 日(9-17日).Grade B 以上の明らかな膵液瘻は認められなかったが,術後7日目に行った腹部CT 検査にて膵切離断端に仮性囊胞を3症例に認めた.術後病理診断はserous cystadenomaが2症例,serous oligocystic adenoma,mucinous cystadenoma,neuroendocrine tumor,solid-pseudopapillary neoplasm が各々1症例であった.腹腔鏡下に脾および脾動静脈を温存する膵体尾部切除術は良性および低悪性度膵腫瘍に対して安全に施行可能な低侵襲で有るが,術後の膵液瘻を予防する膵切離方法に関しては,今後更なる改善策が必要と考えられた.

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