畠山直哉による陸前高田の写真をめぐって

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  • On Naoya Hatakeyama's Photographs of Rikuzentakata
  • ハタケヤマ ナオヤ ニ ヨル リクゼンタカタ ノ シャシン オ メグッテ

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抄録

東日本大震災によって不可避的に変化してしまった自身の風景写真を、彼は”Biographical Landscape”(伝記的風景)と表現した。それらの写真には、畠山個人の記憶や自伝的要素が充填されている。《気仙川》と名づけられた写真群では、その提示の形式において、被災した故郷、陸前高田へとオートバイで向かう途上、或る種の変容状態に陥った畠山のなかで次々と浮かんできた故郷の思い出が再現されている。言い換えると《気仙川》は、主体の意識が意図せずして衰弱しなければ生じないという条件の下で出現するイメージを復元-再生している。震災後、畠山は故郷と自宅のある東京を往還し続けており、その時間の集積が量塊として表象されているのが、『まっぷたつの世界』のコンタクトシートである。膨大なコンタクトシート全体に捉えられているのは、作家が受動性・偶然性に身を晒すことにおいて、自然が人間の生とその持続を通して描き出す、自己生成する風景である。それは世界に巻き込まれた「オロオロアルキ」する畠山の身体の移動が表出する、畠山の喪のプロセスでもある。コンタクトシートの最終部に現れる子供のイメージは、終わりのない喪のプロセスの句点であり、かつ、喪という「共にあること」の哀悼と希望の表現であろう。

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