能界展望(平成5年)

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  • ノウカイ テンボウ ヘイセイ 5ネン

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抄録

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平成五年の能界は、ここ数年の動向と大きく変わることはなかった。催しの数も種類も豊富になり、宝生新五十回忌追善能(谷行ほか)や十三世梅若万三郎三回忌追善能をはじめとする記念能も各地で催された。とくに昭和五十八年に開場した国立能楽堂が十周年の節目を迎え、その記念公演や連続シンポシドウムや特別展示もあり、もう十年になったのか、という感慨を深くした。また、観世文庫設立記念の展覧会「観世宗家-幽玄の華」、浅井能楽資料館の開館展示、東西の近現代能面作家の新面を中心とした能面展、など、能楽をテーマとする多彩な展覧会が集中した年でもあった。一方、ジャーナリズムに目を向けると、唯一の能評雑誌の『現代能楽』が二五号で終刊となり、過密な催しの数に比べ能楽批評・論壇界は不振といわざるをえない。地方に目を転じると、越谷市に日本文化伝承の館「こしがや能楽堂」が落成、本願寺の能舞台のような屋外の建物で、見所は中庭や別棟の大広間で合計一〇一二名収容できるという。また横浜市・名古屋市などでも能楽堂の建設が進んでおり、能・狂言を楽しむ人々の裾野が広がってゆくのは頼もしいかぎりである。地域に根差し、地域の人達の期待を裏切らないような運営を望みたい。新しいといえば、楽劇学会が誕生した。この聞き馴れない楽劇という言葉からは、坪内逍遙の新楽劇論やワーグナーの楽劇を思い出す人も多そうであるが、詳しくは後述するとして、能・狂言をはじめとする日本の楽劇諸種目の研究・制作・奏演・評論などに携わる者の相互交流を図り、「楽劇学」の確立と進展をはかることを目的としている。以下、主に記録を中心に平成五年の大概を述べる。

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