一人の心理士が検査者と面接者を兼ねる治療構造に関する一考察

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  • A consideration on the therapeutic-structure of one clinical psychologist serving as both a tester and therapist
  • ヒトリ ノ シンリシ ガ ケンサシャ ト メンセツシャ オ カネル チリョウ コウゾウ ニ カンスル イチ コウサツ

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抄録

本稿では,一人の心理士が心理検査と心理面接を担当する治療構造の意味や課題を考察した。心理士がクライエントに心理テストと心理面接を実施する場合,一般に「心理テストと心理面接は異なる心理士が担当することが望ましい」と言われる。これは,一人の心理士が検査者と面接者を兼ねることの意味や課題を十分検討する必要性や,心理テストと心理面接から得た理解を総合する難しさを注意喚起するものと考えられる。しかし,それがいつの間にか教条的に広まり,場合によっては禁止事項のように解釈されている側面も懸念される。そこで本稿では,ロールシャッハ・テストを実施した心理士がその後のアセスメント面接を引き続き担当した架空事例を元に,検査者と面接者が同一人物である治療構造について検討した。その結果,心理士側への意味や課題として,①テスト結果による理解が強く印象に残りhere and nowの面接関係を理解する視点が疎かになりやすいこと,②テストによる理解と面接による理解の間の「ずれ」を見逃しやすくなることが考えられた。一方,クライエント側への意味や課題として,①心を見透かされる恐れや不安が高まりやすくなること,②心理検査場面と心理面接場面で求められる主体性の変化に戸惑いやすくなることが考えられた。以上から,心理士・クライエントを取り巻く諸条件(治療構造)が双方の関係にどのような影響を与えるのか,双方にどう体験されるのかを検討することの重要性が改めて理解された。さらに,こうした治療構造の意味や課題は,心理士の成長プロセスにおいて,初学者から次の中堅へと移行する段階で特に指導・教育されるべきテーマであることが示唆された。

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