オランダ領東インドにおける日本人小売商と世界恐慌 --スマランの加藤長次郎を事例として-- (小特集 アジア経済史の諸相)
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- 泉川 普
- 愛知県立大学多文化共生研究所客員研究員
書誌事項
- タイトル別名
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- The Japanese shopkeepers in Netherland East Indie under the Great Depression --the case study of KATO Chojiro in Semarang-- (Special Issue: Various Aspects of Asian Economic History)
- オランダ領東インドにおける日本人小売商と世界恐慌 : スマランの加藤長次郎を事例として
- オランダリョウ ヒガシインド ニ オケル ニホンジン コウリショウ ト セカイ キョウコウ : スマラン ノ カトウチョウ ジロウ オ ジレイ ト シテ
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説明
本稿は, オランダ領東インドにおける日本人小売商の取引関係と1929年の世界恐慌による不況対策の事例として, ジャワ島スマランの加藤長次郎商店(以下, 加藤商店)が有した取引相手の多様性が同商店の不況克服にどのように寄与したのかを考察する。1930年代初頭, 世界恐慌は中部ジャワの現地人のみならず, ヨーロッパ人にも大きな影響を与えた。その結果, ヨーロッパ人の間でも, 安価な日本製日用品への需要が高まった。このことは安価な日本製品を販売する日本人商店の叢生を促したものの, 不況の回復が進むにつれて, このような商店は閉鎖せざるを得なかった。そうした商店とは異なり, 1930年代以前に設立された日本人商店はそれほど景気の変動に左右されず, 経営を維持していた。そのひとつが加藤商店であった。1910年代に開店した同商店は, ヨーロッパ人を主な顧客として美術工芸品を販売していた。しかし, 1932年に不況の影響による販売不振から, 比較的安価な日本製日用品に取扱いを広げるようになった。その結果, 回復期には高品質商品の販売も手がけ, 顧客層の拡大に成功した。この加藤商店の「成功」を支えたのが, 日系業者のみならず, 欧系業者や華人系業者を含む多様な仕入先との取引関係であった。それは同時に, あらゆる顧客のニーズへの対応を可能にし, 結果として景気変動の影響を軽減することにもつながった。以上を踏まえるならば, これまでの先行研究が強調する日本人同士の「一体性」や現地社会での日本製品の需要の喚起のみが日本人の蘭印での「成功」とし, その内実を支店の拡大や新規開業者数の増加とそれに伴う日本人の商圏の拡大のみに求めてきたことは, 再考を要するといえる。そのような傾向は一過性であり, まずもって世界恐慌という植民地社会全体に影響を及ぼした不況の克服が肝要であった。その意味で, 加藤商店による不況への対策は, 多様な商業集団とのつながりを利用し, 現地での商業活動に必要な信用を確保できた在ジャワ日本人小売商の一類型と見なすことができよう。
収録刊行物
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- 人文學報
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人文學報 110 215-251, 2017-07-31
京都大學人文科學研究所
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390572174798175616
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- NII論文ID
- 120006466642
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- NII書誌ID
- AN00122934
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- DOI
- 10.14989/231127
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- HANDLE
- 2433/231127
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- NDL書誌ID
- 028492547
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- ISSN
- 04490274
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- IRDB
- NDLサーチ
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用可