<論説>ローマ五賢帝政治の成立

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タイトル別名
  • <Article>The Establishment of the Politics of the Five Good Emperors
  • ローマ五賢帝政治の成立
  • ローマ ゴケンテイ セイジ ノ セイリツ

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抄録

紀元九六年のネルワ帝即位に始まるローマの所謂五賢帝時代は、帝国の内外が安定した全盛期といわれるが、とりわけその国内政治における安定の要因としては、養子皇帝制の創始や皇帝と元老院の協調が注目されてきた。本稿は、ネルワやその後継者トラヤヌスばかりでなく、彼らと対比される「暴君」ドミティアーヌスの政治をも分析し、国内政治の安定が如何にしてあるいはどのようなものとして確立されたのかという問題を考察しようとしたものである。そこでは、養子皇帝制は実体のないものとして示され、また皇帝と元老院の関係についても、国制上の問題ばかりでなく、政治的支配層としての元老院議員階層の動向にも注意が向けられている。そして考察の結果として、次のことが明らかになった。即ち、社会的流動性というローマ社会の特質をふまえて、帝国全域にわたる有力者の政治参加を積極的に可能とする体制の明確な誕生、あるいは「父祖の遺風」を規範とするローマ社会のもつ政治的伝統と拡大しきった大帝国の社会的現実から生まれる新しい政治的要素との調和、こうしたものが国内政治安定の重大な要因であり、かかる観点から内政上の安定を実現した政治体制を「ローマ五賢帝政治」と呼ぶならば、それはネルワ帝においてではなく、トラヤヌス帝治世初期において成立したとみることが出来るのである。

収録刊行物

  • 史林

    史林 69 (2), 153-191, 1986-03-01

    史学研究会 (京都大学文学部内)

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