統治テクノロジーのグローバルな展開と「人種化」の連鎖 --日本近代の部落問題の「成立」をめぐって--

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タイトル別名
  • The global development of governance technology and chains of "racialization" : On the formation of Buraku problems in modern Japan
  • トウチ テクノロジー ノ グローバル ナ テンカイ ト 「 ジンシュカ 」 ノ レンサ : ニホン キンダイ ノ ブラク モンダイ ノ セイリツ オ メグッテ

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抄録

本稿では一九世紀末から二〇世以前半期にかけて, グローバルに伝播した人間統治に関する新たな知識・技術・制度のもとで部落問題が人種主義と共鳴しながら成立した過程を, 近代の生政治との相関のもとに考察する。日本では, 部落問題は長らく前近代社会における封建的身分制度の残滓として理解されてきた。しかし, 身分解放令が出されてから約一五〇年が経過し, 近代化と経済成長をとげた現代にも差別が存在することを鑑みれば, 従来の解釈枠組がもはや現実を合理的に説明しえていないことは明らかであり, 近代社会が差別を生み出す構造や機序の解明が求められている。M・フーコーは, 人間の健康や生死に働きかけ, その生を効率化・極大化する権力の働きを近代資本主義下の統治の特徴として論じ, これを「生−権力」と呼んだ。この権力は生物学的な種という観点から人間を集合化した塊(人口)として捕捉し, その生命プロセスに介入することにより, 社会全体の生産性を高めることを目標としている。人口規模で人間を統治する生政治において重要な役割を果たしたのが, 生理学や医学, 心理学などの<知>であった。これらの科学は人間の状態に関する「標準」像を提供し, 全ての人間を「正常」か「異常」かに振り分けることを可能とする。そして心身の発育や発達の「定型」から逸脱していると判定された人びと(貧民, 浮浪者や障害者, 精神病者, 犯罪者, 娼婦など)は, 遺伝や環境を介して同様に危険な子孫を社会に送り出し, 社会や国家の衰退をもたらす危険な存在として, 教育, 治療, 矯正の対象とされていく。こうした「異常」とされる人びとに対する眼差しは, エスニックな社会集団に対する眼差しと連結されることで, 新たな人種差別主義を生み出していった。日本国内では, 被差別部落民が危険な集団として見出され, 政府は人びとの生活を改良し心理状態の善導を企図して社会改良政策を開始していく。近代的人間の主体化とその管理を実現する統治のあり方と連動しながら近代の部落問題が「成立」した過程を分析する。

収録刊行物

  • 人文學報

    人文學報 114 73-95, 2019-12-25

    京都大學人文科學研究所

参考文献 (80)*注記

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